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気づけば病院のベッドの上にいた。幸也が心配そうに俺を見ている。俺はお前のために何ができるだろう、ふとそんなことを考える。幸也を幸せにするのは自分だと思っていた。けれど、それは大それた願いなのだと今更になって気づく。
俺は今回の初潮で愕然とした。
Ωという遺伝子を前に自分がいかに無力であるか、いかに人間が遺伝子に縛られているのか。抗えなかった。守るために鍛えた体はなんの役にも立たなかった。
俺はもう幸也を守れない。きっとαを前に俺はまた何もできなくなる。
俺は覚悟を決めて顔を上げる。
不安げに揺れる恋人の瞳をまっすぐに見返して、俺は静かに言葉を紡ぐ。
「別れよう」
俺の言葉に大きな瞳がさらに見開かれ、幸也の目から耐えきれなくなった涙がコロコロと零れ落ちた。
「どうして・・・?」
消えてしまいそうなほどか細い声が俺の真意を問う。そんなこと聞かなくてもわかっているだろう。やりきれなさと悔しさに俺は両こぶしをぐっと握りしめた。
「もう俺はお前を守ってやれない」
Ωの俺ではお前を幸せにできない。いざという時必ず助けてやれる保証がない。
そんなこと、最初から分かっていたじゃないか。それでもこの「想い」だけでやっていけると愚かにも俺は今日まで信じていた。
俺から切り出した別れ話の後、畳みかけるように続ける。
「お前にはきっと俺よりふさわしい人がいる」
お前の隣にはαが似合う。こんな俺なんかよりずっとふさわしい人がお前を守ってくれる。
「…修平までそんなこと言うの」
ぽろぽろと泣く幸也に手を伸ばしかけ、その手をぐっと握った。
幸也の涙をふく資格はもう俺にはない。
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