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つれてこられた場所は大学内でもめったに使われない古い校舎の中の小規模な教室。使われないとはいっても机やいすはそのままだ。喧嘩をするにはあまりに不向きだ。 後ろ手でガチャリと扉に鍵をかける音がした。俺はそれに一瞬目をむけ、その後男に視線を戻す。 「こんなところまで連れてきていったいどういうつもりだ?」 「君に喧嘩で勝てないことなんてわかってるからね、頭を使ったのさ」 こんこんと自分の頭を指で叩いて男が言うと、周囲は何が面白いのかげらげらと笑っている。 「言っただろ、君が校内で倒れたことはすでに噂になってるって」 「だからなんだ、おかげさまで今は完治してるがな」 先ほどから何を言いたいのかさっぱりわからない。この男たちにかまっている時間ももったいない。 「お前の話は回りくどくて好かない。何が言いたい」 「噂は倒れたことだけじゃない、その理由もだと言ったら君でもピンと来るかな」 その言葉に考えを巡らせるよりも前にがくりと体の力が抜ける。体が熱い。下腹部がじくじくする。息が熱い。 「よかった、噂は本当だったね」 「噂・・・・?」 「ああ、君がΩだって噂が広まってる」 だから前もって準備させてもらったんだよ、そう言って男が向けた視線の先には何やらお香のようなものがおいてある。よく見れば教室にいくつか同じものが置いてあった。 「Ω専用の誘発作用のあるお香、まあ簡単に言ってしまえば媚薬のようなものだよ」 俺にこんなものをかがせて一体どういうつもりだ。恥でもさらさせたいのか。生憎自分の理性は鋼より硬い。今日まで幸也と清く正しいお付き合いをしてきた俺の理性を嘗めてもらっては困る。 「思ったより反応が薄いな」 つまらなそうに男は言って、すぐに何やら思いついたように顔を輝かせた。嫌な予感がした。 「強姦(まわ)そうか」 一瞬その言葉の意味が理解できなかった。けれど動けなくなった俺の体を抑え込まれた。二人の男に両腕と両足を押さえられ呆然としているうちに気づけば距離をよせていた男が俺のシャツのボタンを一つ、また一つと開けていく。 「な、何をして・・・」 俺の戸惑った表情に満足したように笑みを深めて男は耳元に顔を寄せる。 「君にΩの快楽を教えてあげる」 ふっと耳に吐息をかけられぞわりと悪寒が走る。暴れようとあがいた手足は簡単に男たちの手によって押さえつけられた。 「あっ・・・っ」 胸のしこりを男の指が柔らかなタッチでかすめた瞬間、思わずこぼれた声に俺はぐっと唇を噛む。こんなことありえない。全身の神経が過敏になっている。触れた瞬間甘いしびれが全身を駆け巡った。 「Ωは奪われる側の人間だ。搾取される側の人間だ。そんな男が今まで幸也の隣を彼氏面して歩いていたと思うと腹立たしいね」 「お前は幸也が好きなんだろう、俺にこんなことをしてお前になんのメリットがある・・・いっ」 「口を開くなよΩ風情が」 目の前をぱっと火花が散る。その後口に広がる鉄くさい味に頬を張られたのだと気づく。 「お前のようなゲテモノでもΩだと思えばまあやれるか」 ここまでされて自分がこれから何をされるのか理解できないほど俺は馬鹿じゃない。 体が震える。恐怖で声が出ない。にたにたと一様に笑いを浮かべて俺を見下ろす目にまるで自分が見世物にでもなったかのような居心地の悪さと吐き気を覚える。俺はそれらを視界にいれないためにぐっと目をつむる。こんなこと大したことじゃないと言い聞かせる。 その時、ガンっと大きな音がして教室の扉が揺れる。皆一様に警戒したように動きを止め扉のほうへと視線を向けた。二、三度鈍い音がして扉が外れこちら側へと倒れてくる。扉の近くにいた数人が慌てて扉から離れた。 俺は頭を持ち上げなんとか扉のほうへと視線を向ける。そこに立つ人物に目頭が熱くなるのを感じた。
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