不出来なαは愛を請う

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恋人の意識が落ちたことを確認して足立 幸也は顔を上げる。その先におそらく今回の騒動の首謀者であろう男の姿をとらえた。 沸き上がる殺意に近いほどの怒り。ついうっかり殺してしまいそうになるのをなんとか抑えて、大きく深呼吸を一つ。 さて、一体どうしてやろうか。まず手始めにとりあえずは。 「全員地面に膝をついて許しを請え」 幸也が言葉を発した直後教室にいる男たち全員がその場に跪き頭をたれる。おそらく彼らは今現在自身に起きていることに理解が追い付かない。なぜ自分たちは言われるがままに地面に膝をつき頭をこすりつけているのか。αのなかには一度も誰かに頭を下げたことなどない者も少なくないだろう。 一体何が起こっているのかわからない。それでも逆らってはいけないと本能が告げる。もし逆らえばその時自分自身の命の保証はない、誰に教わるわけでもなくそれを知っている。それはきっと受け継がれる遺伝子の記憶だ。 真に仕えるべきは誰なのか、人は生まれながらに理解している。それはバース性の起源、初めて地球上に存在した皆を平伏させる力を持つ人間、それを初めて「α」と呼んだ。幾数世紀にもわたってその血は薄れ、今や大衆を惹きつけるカリスマ性や才能のみを引き継いだほんの一握りがαと呼ばれている。 しかしごく稀にαの遺伝子を色濃く受け継ぐものは初代と同様の力を持つといわれている。 一声その者が命じれば皆がそれに服従する。それはΩもβも、そしてαも同様に。 ただの夢物語だともいわれていた。バース性の頂点に君臨する「王者(支配者)」が今まさに目の前にいた。
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