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思えば幼いころから僕は自分のもつ「特殊な力」を知っていた。当然学術的な知識ではない、ただ、僕が強く願った言葉は現実となる、その程度の知識だ。当時僕はこの力をただ「便利な力」だと楽観視していた。しかしこの力が最悪な形で最初に現れたのは10年前、僕が小学生の頃だった。
具合が悪くなって保健室で仮眠をとっていると、人の気配を感じて目が覚める。ベッドに横たわる僕に覆いかぶさるような形で目の前には保健の先生がいた。
初めは何が起こっているのかさえわからなかった。ただただ耳元で聞こえる先生の荒い息遣いに恐怖した。僕のシャツに手を入れて胸をまさぐる光景は異様だった。
先生が自分に何をしようとしているのかさえ分からないほどに未熟だった。ただぞわぞわと這い上がる悪寒に吐きそうだった。
「足立は本当に可愛いな」
先生は僕が目を覚ましたことに気づいても一向にやめる気配はない。それどころかそんな風に耳元で囁いて自身の欲を僕の足に押し付け腰を揺すった。
恐怖で声をあげることもできない。パニックになって誰かに助けを求める考えにすらいたらない。そんな僕の様子に何を勘違いしたのか嬉しそうに男は笑って囁く。
「いい子だ。おとなしくしていてね」
そして、僕のズボンに手をかけた。その瞬間、ついには抑えきれなくなった感情が言葉となって飛び出す。僕は叫んだ。
「先生なんて死んじゃえ」
無意識にも近かった、恐怖が完全に頭を支配して、自分に脅威をあたえる目の前の男がいなくなればいいと、ただそれだけを願った。その瞬間、保険の先生は保健室の開かれた窓から躊躇なく身を投げ出した。
鈍い音がして、下から悲鳴が上がる。
幸い保健室は二階で、飛び降りた先生も大した怪我にはならなかった。それでもあの日何があったのか聞かれても僕は黙秘した。先生に自分がされたことはもちろんだが、自分自身がしでかしてしまったであろうことを話すのが何より恐ろしかった。
それでも当然保険の先生が飛び降りたところを目撃した生徒は何人もいて、僕の願いに反してその噂はまたたくまに広がった。次第にあの時保健室にいた僕の存在もどこからかしれわたり、僕が先生を突き落としたという噂までも広まり始め、気づけば僕は孤立していた。
遠巻きに誰かもわからない生徒から「人殺し」と罵られた時、僕のなかで何かが折れる音がした。
その日を境に僕は次第に学校に行けなくなっていった。
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