‐1‐

2/2

149人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
出会いは小学生の頃。 俺はΩに生まれながらにして、体格に恵まれていた。そのため俺含め家族や周囲は皆俺をα、あるいはβであると思っていたほどだ。歳の離れた双子の妹がいたこともあり、幼き頃から俺は自分より体の小さく弱い者を守ってやらなければならない、という使命感と人一倍強い正義感があった。下級生には当然優しく時に諭し、上級生であっても間違っていると思えば果敢に立ち向かった。 5年生に上がるころ、幸也が俺の学校に転校してきた。一目で守ってやらなければならない対象だと思った。他の同級生たちに比べ一回りも小さな体、同級生たちから向けられる視線に怯えるように俯く幸也の手は小さく震えていた。 手足は細く、肌は雪の様に白い。うつむきがちな前髪の隙間から時々覗く唇や頬がひどく艶めかしい。クラスの男子たちは毛色の違う美しい転校生を前にどう接していいのかもわからず、照れ隠しのように「女みたいだ」と揶揄った。幸也はますます体を縮こませ、下をむく。 そんな幸也に罰が悪そうにするクラスメイト達。俺は彼らを牽制するようににらめばすごすごと幸也から距離をとった。 「はじめまして、俺は井口(いぐち) 修平(しゅうへい)」 よろしくな、俺がそう言って差し出した手を恐る恐る幸也はとり、小さな声で「よろしく」と返した。 それから毎日のように俺は幸也に話しかけた。言葉を返してくれなくてもよかった。ただ心を閉ざした自分より小さな存在を自分が守ってやらなければならないと思った。 数か月すると少しずつ幸也は俺に言葉を返すようになっていった。俺だけでなく他のクラスメイト達ともコミュニケーションがとれるようになっていった。それでも幸也は他の同級生たちへの交流を広げることよりも俺と共にいることを優先した。それは依存にも近かったかもしれない。しかし俺はそれがうれしかったのだ。 俺と離れると幸也は不安そうな顔をした。そばにいると嬉しそうに幸せそうに笑った。 まるでひな鳥になつかれたような、誰にもなつかない猫を飼いならすかのようなそんな気持ち。そんな関係は中学に上がってもなお続いた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加