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【七月の殺人】
00 粉雪、殺人風景
2014年7月10日午後2時30分。桜が丘の廃屋。
彼は宙を見ていた。
何も映さない瞳で、漂うように。
『ユラギ』という、その少し不思議な名前の響きに、余りに相応しく、ゆらゆらと、儚げに。
右手に持った、痛々しい程に尖った刃。
その先端から、真っ赤な血を滴らせて。
彼は、ユラギは。
当初の目的通り、自分の父親を殺したのだった。
辺りは七月なのに、ひらり、ふわり、粉雪が舞い、横たわる男の死体を白く埋めてゆく。
紅い血を清めていく。
罪も悲しみも何もかもなかったことにするみたいに。
暫くして、漸くこちらの存在に気付いたように、ユラギが、視線を揺らす。
俺を認めて、彼は。
男にしては美し過ぎる顔を此方に向けた。
雪よりも青白い顔で、彼は、笑う。
その顔が、美し過ぎたからか。
儚すぎたからか。
それとも、哀し過ぎたからか。
俺は、
『違う』。
そう思った。
この結末は、『違う』。
何故だか強く、そう思った。
だから、だ。
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