【七月の殺人】

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いつもズボンのポケットに入れている、白いメモ帳を取り出し、シャツの胸ポケットからペンを抜いて、走り書いた。 《2014年7月10日、午後2時00分桜が丘の廃屋》 今から30分前。 そこから、全てやり直す。 それが多分、今俺にできる、最良の事。 『もしも』 彼が父親を殺して、それでも幸せになれなかったなら、実行しようと考えていた。 だけどそれは、俺にとっては少し辛い選択。 それでも。例えそうでも。 ユラギが幸せになれないなら、俺にはすべての事が意味がないのだ。 迷っている暇なんかない。 もう一度、もっと、過去へ。30分巻き戻して。 全てをゼロに戻す方法、それを、俺は知っているのだから。 [01 少年は空を睨む 《グラスの底を覗き込むと、炭酸の泡のもっと奥、澄んだグリーンが見えたんだ。 「海だ」 そう思った。 体が5センチ、浮いた気がした。 ふわり、ゆらり。 見たことの無い南国の海。 その温い水の冷たさに、ゆるく冷やされていく思考。 なんだかそれは、永遠に似ていて、俺は少し泣きたくなった。》 「またそれ読んでんのか。」
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