【七月の殺人】

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「んー、だって何回読んでも綺麗なんだよ、景色がさー」 俺が声を掛けると、間の抜けたような声で返してくる。 こいつは櫟ユラギ。 変な名前だ。ほんと。 名前に負けず、本人もコーラの炭酸を思い切り飛ばしたみたいな気の抜けたやつ。 なんだかんだで、こいつと暮らし始めて二年。もうすぐ、二度目の夏がやってくる。 「響もさー、読んでみたらいいのにー。夏空探索。夏の景色がさあ、超超綺麗に描かれてるからさあ。」 「じゃあどんな風に綺麗か説明してみろ。」 「えー」 「えー、じゃない。さっさとしろ。俺は暇じゃ無いんだ。」 「本当に響は発言がいちいち上からだよねぇ。頭に来るとかじゃくて、そこまで行くと感心しちゃうなあ。」 「おまえは年がら年中間延びしてやがるな。トロいしぼーっとしてるし頭のネジぶっとんでるし。それで成人男子ってんだから、呆れを通り越して尊敬するぜ。」 「いやだなあ、そんな風に言われたら照れるじゃん。」 「嫌味さえも通じないその足りない頭…殴りたくなる。」 「痛いのやだー」 「いーから、本の説明!」 「あのねー、」 ユラギはそこで一息つくと、ゆっくり目を閉じる。
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