【七月の殺人】

4/53
前へ
/53ページ
次へ
「金の麦畑がざわざわ風に揺られて、 視線を上げると、青。 それは寂しさのカケラもないようで、強さの後ろにそっと優しさと、淡い淋しさを隠してるんだ。 空に響いていく風鈴は、鐘の音のように澄んでいて、全体を水彩色に染めていく。 空気が止まる。緑が息する。呼吸が止まる。 静止画の、夏は一枚絵のように。 その真ん中に立った少年は、一瞬俯いて、それから、意を決したように見上げる、空。 瞳は強く、強く、空を睨んで。 『何にも負けない強さを』、と、欲しているんだ。」 言葉を紡ぎおわったあと、部屋が一瞬、シン、と静まり返る。 だから、か。 なんだかユラギの言った言葉のひとつひとつが、まるで神聖なもののように思えてくる。 そしてまた、その緊張を解くのも、ユラギ本人。 「ねー?綺麗でしょー?ねー?響は作家なんだし、たまにはこういうのも、読みなよー」 「残念、俺はBL作家だから、可愛い男の子が悪いおにーさんに、調教されたり辱められたり嬲られたりっていう、ドロドロエロエロだけ書いてればいいから、詩的な情景描写とかはいらねーの。」 言い放って、少し呆れ気味に見下ろした。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加