【七月の殺人】

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「行きたいところ、あるか?どこでも、連れて行ってやるぞ。」 「ある!ある!あのね…」 はしゃいで声をあげるユラギの手を取って。 部屋を出る。玄関を開けると、降り注ぐ初夏の日差し。まだ、そんなに強くは無いけれど、もうじき目がくらむほどに強くなる。 首筋を、背を、胸を焼く、あの情熱に似た夏が。 永遠に続くのではないかと思われる、灼熱が。 「もう夏、だな。」 眩しい空に瞳を細めて、見上げる。 ユラギの描いた情景の、それは少年の姿に似て。 繋いだ手に力を篭める。 七月。これから世界は、夏色に姿を変えてゆく。 変わりゆく世界の真ん中で、ふたりは。 夏に染まってゆく。 [02 悪夢] 俺は夏目響という。 男性の少ないBL業界で作家をしている。 男のBL作家というのが珍しいのか、本はそれなりに売れているが、自分でもまぁよくこんな酷い話が書けるなと思うレベルで、自分の作品など一冊も読んだことがない。 それでも書き続けているのは、一応生活していけるだけの収入があるからだった。
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