第10話 王都武術大会

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第10話 王都武術大会

 闘技場の円形の観客席はほぼ満席だ。 中央の四角い舞台で戦士達は戦う。 前日までの予選で参加者の大多数が振り落とされていてもまだ、 組み合わせ表にはたくさんの名前が連ねてあった。  大会は3日かけて行われる。 毎年上位の強者同士が初戦でかち合わないように、 強者は初戦には参加しないように組まれていた。 ルールは単純明快。 相手が降参するか、戦闘不能と審判が判断すれば勝ちだ。 魔力を使っての攻撃は不可、純粋な武具を使っての己の技術のみで競う。  カイがナオヤと戦うには三戦勝ち抜く必要があった。 「カイさ~ん、がんばってくださ~い!フレ~フレ~、ですよぉ!」  スーの応援は少し気が抜けるが緊張したカイの気持ちを緩めてくれた。  一回戦は大きく力量に差があったのでカイは余裕をもって突破した。 二回戦目は手練れた相手で厳しい戦いになった。 森での野生的な修行で培ったスタミナのおかげでどうにかジリ貧の勝利を手にした。  三戦目の相手は一回りほど年上の恰幅のいい男だった。 試合、始めっ! 審判のかけ声と共にカイは持ち前の瞬発力で 飛び出し三段付きを放つが相手は冷静に受け流す、 同じようなことが何度か続く。  手ごたえを感じられない焦りで更にスピードに乗って猛攻を繰り出そうとした、 その時ふとラモウの罵声が頭に響いたような気がして、とっさに後ろへ飛びのく。 「何故攻撃を続けなかった?」 「師匠が一方的な攻め込みは足元すくわれるって口を酸っぱくして言ってたもんでね。 あんたが攻撃してこないのはカウンター狙いだったんだろ?」 「さてな。 それならば今度はこっちから行かせてもらうとするぞよ!」 男は大剣を構え、真横から大きく切り込んできた。 大きな斬撃だ、まともに受ければ体制を崩し、とどめを打たれるだろう。 とっさに間合いから遠のく。 「ガハハハハ!坊主、避けていつだけでは勝てぬぞ!」 でかい割にはスピードがある、すぐにまた一撃が飛んでくる。 一撃が大味なぶん隙はあるが間合いへ入るのが難しかった。 大きな斬撃が轟音と共に地面にを穿つ。 その時、剣が舞台の地面に刺さり、男が引き抜くまでの一瞬をカイは見逃さなかった。 素早くも大胆な動きで男の首筋に剣を当てがう。 「そこまでっ!」 審判が大きく手を上げ、大会の銅鑼の音が鳴り響く。 こうして初日になんとか三戦を勝ち抜き 翌日、ナオヤとの試合を迎えた。 ここで勝てば上位10名に名を連ねる事になるらしい。 とうとうウワサのアイツがお目見えというわけか。 王都内外にも名が知れていて、特に女達から絶大な人気を誇るというナオヤ、 そのファン達で闘技場の客席は早くも黄色い声援で溢れていた。 「これじゃ僕たちの応援の声も聞こえなさそうだね」 「お兄さん凄い人気ですねぇ〜声が届かなくても、気持ちはきっと届く筈ですぅ、精一杯応援しましょーね!」 スーはいつだってポジティブだ。 「そうだね。でもなんだか僕のほうが緊張してきちゃったかも」 控え室でカイは客席の黄色い声も聞こえないほど、集中していた。 剣の師を同じにするナオヤという存在、 いつかは戦ってみたいと幼い頃からずっと望んでいた。 ナオヤだったきっと同じ気持ちなのだろう。 アイツの剣はどんなだ、ラモウ爺ちゃんからはどんな指導をされしていたんだか? 昨日まではそんな色々な考えで頭の中が埋め尽くされていたのだが 直前となった今はただ全力で思いっきりぶつかりたいという事だけだ。 厳かに二人の名前が呼ばれ、舞台の対面から男が姿を現した。 なるほど、女性人気も頷ける。 さらさら風になびくの長い銀髪を後ろに結わえ、 片側を長く伸ばした前髪。表情は読みづらいが顔は恐ろしく整っている。 ただ立っているだけだというのに、騎士というよりどこかの王子のように優雅だ。 柔和で少女っぽい顔立ちのレリエと顔立ちの印象こそ全く異なるが 気が強そうに少しつり上がった目尻には共通のするものを感じる。 切れ長の涼しげなすみれ色の瞳はじっとこちらを推し量るように睨みつけていて、 一瞬たりとも視線を逸らさない。 冷静で冷たく見えるのに内面のほうは実はそうではないのかもしれない。 銅鑼が鳴り響く。 2人は鏡を向かい合わせたかのようにそっくりな動きで同じ構えを取った。 ラモウ流剣術の基本的な構えのひとつだ。 客席が一瞬ざわめいた。 4d342270-d99c-42c8-a622-b33cd8b36b95「この場所で兄弟子(きみ)と手合わせできる日が来るなんてね、嬉しいよ」 落ちついた声でナオヤは言った。 「まて、その前に話がある」 「話?積もる話は試合が終わったら、午後のお茶でも飲みながらゆっくり聞いてやる。 今はこっちに集中してくれ、皆も”俺”の試合を待っているようなんでね」  カイは頭に血が上りそうになるのを必死に押さえた。 わかっている、挑発されているのだ。 「いちいちカンに触るヤツだなオマエはっ! 約束だ。そのためにここまで来たんだ…」  2人は同時に息を吸い、その一瞬後、一気にぶつかり合った。 ガキイイィン!!  剣と剣が合わさりあい火花をたてる。 細身の見た目にしては剣撃が重たい。 腕力ではかなり拮抗しているかナオヤが本気を出してないならそれ以上だ。 ブンッ ナオヤはそのまま剣を弾きカイはそのまま後ろへ飛ぶ、 そこをまた凄まじい速さでナオヤは追撃を浴びせる。 「どうした、()()()様。剣さばきのお手本を見せてはくれないのか?」  と不敵な笑みを浮かべるナオヤにはまだ余裕が見える。 一撃一撃が無駄がなく研ぎ澄まされている。  それでいて美しい剣さばきだった、 まるでダンスでも踊るかのように優雅で華麗。 客席はますます黄色い声で盛り上がる。  ナオヤから見てカイの剣は直情的でとてもまっすぐに見えた。 眩しいほどに。 荒削りだがラモウの教えに忠実で一撃ずつ確実に相手が狙われたくない箇所を 狙っているようだった。  ナオヤの三段目の攻撃をいなした。 「手元ばっか気にしてんなって師匠も言ってただろ!!」  カイは素早くかがんで足払いをかける ナオヤは一瞬目を見開いたが体制を崩す事無く、無難に避けた。 カイはそれを見越して砂利を掴んで目潰しに撒く。 が、それを真に受ける前にナオヤは飛び退いて距離をとった。  顔の前で剣を真横に構えるナオヤにカイは真っ直ぐに斬りかかるが その途中、さり気なく片手を後ろに回したのをナオヤは見逃してはいなかった。 正面同士十字に剣と剣がぶつかり合った。  カイは右の剣でナオヤの剣を止めて、左手で腰から抜いたオリハルコンの三徳包丁で 首筋へ王手をかけるつもりでいたのだが どこからか現れたナオヤの二本目の剣が一瞬にしてナオヤの左手に収まっており 二双の剣でハサミのように挟まれて弾かれてしまい 包丁はカイの後方へ飛んでいった。 ナオヤは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして笑いをこらえている。 「ふ、ふふふ……なんだ……その包丁は……! ははっ、小賢しいことをしてくるかと思えば包丁とは……。包丁も武器として登録できるんだな。 くくっ……おもしろいやつ。 今ので刃こぼれしたんじやないか?それでおいしい晩飯は作れそうか?」  観客もワーワーと盛り上がっている。 「むっ……ムカツクやつ…馬鹿にしやがって! あれは、じいちゃんが昔ダンジョンで拾ってきたっていう 伝説の素材オリハルコンでできた伝説の包丁|(本人談) なんだよっそう簡単に刃こぼれしてたまるかっ!」 ナオヤはまだ可笑しそうに笑いを堪えている。 「っていうかお前の急にでてきた剣、魔法剣か?魔力の使うのは試合じゃ反則じゃねーのかよ!!」 カイが指差して抗議する。 「魔力で攻撃するのは反則だが武器が魔力で構成されていること自体は反則じゃないのさ。 最初から腰に差しておいてわざわざ鞘から抜いてやっても良かったけど こっちは騎士隊に支給される普通の剣。こっちが俺の魔力で実体化させた氷の剣」 ナオヤの氷のような剣は出し入れ自由らしい。 そんなの卑怯じゃないか? 「ぐぬぬ……」 いちいち神経を逆撫でされるのを真に受けていてはいけない、 やつの性格が嫌味なのではなくこうして煽ることがナオヤの作戦のうちなのだろうと。 あの温厚なレリエの兄がこんなヤな奴だとは思いたくはない。 「さ、続きをしようか!?」  ナオヤは微笑を浮かべた。 圧倒的な実践経験の差が一撃交わすごとに カイの腕にみしみしと響いてくる。 二刀流になったことで防御にスキができるはずなのにこれはまさに 攻撃こそ最大の防御、を体現しているではないか。 一体どんな修行をしたらこんな無駄のない太刀筋を描けるってんだ…? 一本剣が増えて激化する波状攻撃をかわすことだけで精一杯だった。 「どうした?さっきのお料理包丁拾ってくるか? 俺は別に待ってやっても構わないやないけど?ククっ……」 包丁というワードがツボに入っているらしいナオヤはまた笑いを堪えている。 「くそっ…」 上下左右どこからでも攻撃が飛んでくる、 かわしたりいなしたりするので精一杯で攻撃の糸口がつかめずにいた これだけ攻撃を続けていてもナオヤに疲れた様子は微塵も無く 長期戦に持ち込むのはこちらにも不利そうだ。 「この大会で、剣を二本使うのは初めてなんだ。 君は俺のスキを一瞬でも付けたことだけでも誇りに思うといい、兄弟子様?」  ナオヤは不敵に、しかしとても魅力的な微笑みを浮かべ 双剣を握りしめ一気に距離を詰めにくる。 トドメを刺しに来ているのを直感したカイは 流れを崩す手段を必死に考える。 客席の前の方に観客たちにすっかり溶け込んで大声で声援を送るスーと 二人の戦いを直視できず両手で顔を覆いながらもそっと指の間から伺うレリエの姿があった。 勿論、戦っている二人は集中していて客席には目にもくれていない。 ナオヤの双剣はカイの剣を挟み込み外側へ回転させる、 手首が回らなくなると剣はあっけなく吹っ飛んでいった。 骨と筋肉の可動域には限界がある。 ナオヤがその剣の行き先へと視線を送ったほんの僅かな油断、 カイは下方から渾身の体当たりをかますと 一気に馬のりになり両手でナオヤの右手首を掴み ナオヤの剣を手首ごと押して首元へ添わすが 剣はスッと消え、いつのまにかナオヤの左手の剣がカイの首元にあてがわれていた。 試合終了を告げる銅鑼の音が鳴り響き大歓声が巻き起こる。 武器のないカイにはもうこれ以上どうすることもできなかった。 「残念。」  ナオヤはゆったりと微笑んだ。 「さぁ、早く俺の上から退いてくれないか。勝ったのは俺だろ?」 「……出したり消したり卑怯じゃねーか?」 パンパンと土埃を払い、観客の大声援に手を振る。優雅で余裕のある動きが鼻につく。 「まぁ、君は実際よくやったほうさ、随分泥臭かったけど。 普段ならこういうことはしないよ、 でも放っておいたら何かまた突飛な事をされかねないんでね。 ふふ……面白かったよあの……ふふ……お料理包丁……!」 「それより!オマエの弟なんだけど」 「あぁ、わかっているさ、 レリを連れてきてくれたんだろう、礼を言うよ」 「そーだ、もっと気持ちを込めて感謝しろ。んで早く会ってやれ」 「俺も早く会いたいさ、狂おしいくらい……でも俺はずっと君と戦ってみたかった。昔から。 他の事情は抜きにしてね。後で城門の所へ送ってきてくれ、そこで待ってる。」 そう言ってナオヤは審判のところへ行き棄権する事を申し出た。 これ以上戦う気がないのと剣を出し入れするのに魔力を使った事が ルールに抵触しそうだからだそうだ。 勝ったのにもったいない。騎士道精神というやつだろうか。 カイはレリエとスーと合流し、一度宿に戻ることとなった。 浴場で汗を流してきたカイは部屋のベッドに腰掛けて震えている両手を眺めていた。 「まだ腕がじんじんしてる…… この大会でナオヤが優勝したの16の時だなんて信じられないぜ…… アイツ相当鍛えてる。一体どんな修行をしたんだか」 扉を開けて入ってきたスーはすかさずフォロー入れる 「初参加で三戦も勝ち抜くなんて十分スゴイですよぉ〜! 無事お兄さんにも会えますしぃカイさん、お疲れサマでした〜!」 「カイ……ごめんね、無理をさせて。 でも兄様すごく楽しそうだったな」  隣に腰掛けて擦り傷だらけの体に薬を塗り込んでくれていたレリエが 眉をいつもより一層、ハの字にして見上げている。 そういう小動物のような顔をされると庇護欲だか母性本能だかが刺激されて気持ちがほわほわしてしまう。 前言撤回だ。やっぱりアイツとはまっっったく似ていないとカイは強く思った。 「オレも試合に出たかったんだ、レリが気にすることはなんもねーよ。 楽しそうっつってもアイツは俺の包丁にウケてただけかもしれねーし? まぁオレも、実際……結構楽しかったんだけど」 ナオヤのような手練を相手にし、未知の領域を見るような気分に胸が高まった。 もっと戦いたかった。 「さてひとごこちついたし、城に向かうか!」 「私も行って大丈夫でしょうか心配ですけど……お城の中も見れたりしますかねぇ~、楽しみです!」
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