第12話 ソラニアの末裔

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第12話 ソラニアの末裔

「”ソラニア”の話は知っているか」 「あ~確か、おとぎ話だろ?」  書物に全く興味のないカイは少しつまらなさそうだ。 「むかしむかし、空には秘密の島が浮かんでましたっていうお話ですよね」  スーが人差し指を口元に当てて言った。 子供の頃に誰もが寝物語に聞かせてもらう、そんな話の一つだ。 「そうだ、でも本当はおとぎ話じゃないのさ」 「なんだって?」 「出来事をひっそりと後世に伝えるために歌や物語にして残すというのは よくある事なんだがこの”ソラニア”の話も例外じゃない」 「ほぇ~ではでは空の島は本当にあった、ということになるんです......!?」  スーは驚いているがカイはいまいちピンときていない。 「オレにもわかるように説明してくれよ」 「そうだな、馬鹿にもわかるように説明するからよく聞いてくれ」 「馬鹿じゃない!オレにもっつったんだ!」 「お前のこととは言ってないぞ」 「兄様とカイは、もう仲良しなんだね!」  レリエが嬉しそうに二人を見比べた。 いつも外面は品行方正にふるまう兄がこんなにもずけずけと 相手に好き放題言う姿を見るのは初めてだ。 剣と剣を交わしてお互いに何か通じ合うものでもあったのかもしれない。 「「仲良しなんかじゃない!!」」  言葉とは裏腹に二人は仲良くハモる。 「うふふ、コンビネーションもばっちりですね~!」 スーとレリエはにっこりと顔を見合わせた。  ナオヤが少し気まずそうな顔をした。 「話を元にもどすぞ、ソラニアのことだが」  遥か昔の古代人は、多くの種族が混在し、高度な文明を持っていた。 まだ魔物のいない時代、世界は幻獣と呼ばれる生き物とお互い助け合い共存していた。 だが人間は文明が発展する度に最期は技術や資源を奪い合いそして滅ぶ。 そんな歴史が何度も繰り返されていた。 だがある日次元の狭間から魔物出てくるようになり、地上は全く安全ではなくなった。 その亀裂を塞ごうとこの世界を守護していた幻獣達の多くが命を落とした。 麒麟やペガサス、ドラゴン、ガルーダ……。 命を落とす前、彼らは選んだ人間に自らの血を分け与えた。 幻獣の血を受け普通の人間にはない特別な力を引き継いだ人間。その一人が俺たち天術士の先祖だ。 普通の人間は幻獣の力を持った人を恐れ迫害した。 それを嘆いた幻獣の血を受けた一人は超文明と彼らの力で空の上に浮かぶ島を造り念入りに隠し移り住んだ。 それがおとぎ話にもでてくる”ソラニア”という名前の秘密の島だ。 古代語で”永遠(とわ)の楽園(ふね)”を意味する。  オレの家に残されていた文献によると ソラニアでは地上で起こるさまざまで超膨大なすべての出来事が ”ィストレコーディア(歴史記憶)”という図書館のような役割の亜空間に記録されているだという。 想像を超える、まさに神にも等しい技術だ。 刻々と地上の記録を刻む歴史記憶、その膨大な情報量と記録された出来事、技術、文明。 それはいつの時代の誰が見ても魅力的な代物だろう。  ソラニアでは言葉どおり、永遠の続くかのように。 長(オサ)の統治で完璧に平和な時代が空の上の島では続いていた。 一方地上の民達は何度も争い歴史を繰り返したが時代ごとに少しずつ歪な変化が現れていた。 ソラニアの長(オサ)は繰り返される歴史に不服でもっと進歩をと、歴史に介入しようとしていたのだ。 地上の民が争い合わぬようにと神のふりをして地上の有力者の前に姿を現し指図し、 操作した歴史を作り上げようとする長(オサ)に多くの種族たちが反発した。 「我々は神のようにふるまうべきではない。」 次第に横暴になる長(オサ)の思想に反旗を抱いた他の一族達は長(オサ)を”封印”し しだいにソラニアを離れ、 地上の人々に見つからぬようにひっそりと暮らして往くようになったのだという。 「俺とレリエはそのソラニアで生きた天術士という種族の末裔だ。 天術士はペガサスの血を受け、夜や星や月と深い繋がりをもつ古代人で星詠みをによる占いを得意とし、 現代の魔術にはない強力な魔術を扱う一族だ」  天術士たちは比較的早い段階でソラニアから離脱したために 一族の長に受け継がれてきた文献にもその先の歴史がどうなったのかは書かれていないという。 「なるほど、正直よくわからねーけど、ソラニアってのは今も頭の上のどっかに隠れて浮かんでるっていうのか?」 「そうだ。”ィストレコーディア(歴史記憶)”ならあの日の村に何が合ったのかも記録されているはずだ」 「とてつもない話、ですね......まだそこに古代人の方は住んでいらっしゃるのでしょうか?」 「どうだろうな......」  おとぎ話のような本当にある島だとか、 現代を遥かに超えた文明だとか話の規模が大きすぎてスーは目が回りそうだ。 「なぁ、そこには何もかもの歴史があるって言ったな」 「そうだ、どんな些細な歴史も呼び出して確認することができると書には書かれていた」 「オレは赤ん坊のころ、森で拾われたんだ。......だったらオレが、どうして森に捨てられたのか、 本当の家族は誰なのかも知ることもできるっていうのか?」  スーはそれを聞いて言葉が出なかった。 ナオヤはカイが食いついてくることも見透かしていたように静かに頷いた。 「文献によればそうらしい。オマエにも一応利点はあるだろ?」  カイは腕を組み、目を閉じて考えた。  ラモウとリタはカイのことを本当の子供のように大事に育ててくれた。 二人がカイにとっての大切な家族だ。それで十分だ。 捨て子だったと知った時、自身の出生を知りたいと思わなかったわけではない。 知った所でどうするのかはわからないが自分の親のこと、捨てられた理由を知りたいと思うのは当然ではないのか。 「それで、どうやってそのお空の楽園へいくつもりなんだ?」 「それは知らん」 「はぁーー!?」  この真剣な流れの中、カイは派手に椅子からずっこけた。 「大事なソラニア関係の文献は全部村と一緒に穴の底だ。 それに、ソラニアにたどり着けたとしたって俺たちだけでは入れない」 「......?それは、どうしてですぅ?」 「ソラニアは厳重に隠され、何人たりとも近づけまいと作られた島だ。 俺が知らないような、貴重な知的資産や物的資源だってあるかもしれない。 当然出入りは厳しく、その島のゲートを開くには ソラニアの血族の証を3つ以上認証させる必要があると書かれていた。」 「血族の証っていうのはなんだ?」 「例えば俺たち天術士でいうとレリがそうだ。 一族で最も強い魔力を持つレリの体には ソラニアン・オーヴといういわゆる種族特有の特殊能力の源のようなエネルギー体が代々継承されているんだ」  レリエの前には母が、その前には祖母が、その前は曽祖父が、というように 先祖代々力の強い子供に受け継がれてきたという。 見当がつかないという顔をしているカイとスーに 「ちょっと見てて」  とレリエが小さく息を吸うと古代語で何かを唱える。 8a095b9e-046b-46d2-82c0-f19d3697712f  すると、レリエの胸元から星座を纏った眩しい球体の中に、輝く鍵のようなものが現れた。 「きれいです......」  皆その輝きにしばし目を奪われた。 レリエはまた何か呪文を唱えると、ソラニアン・オーヴは体に吸い込まれるようにして消えていった。 「ソラニアに入るには俺たち天術士以外にも少なくともあと2種族の協力が必要になる」  カイは机に頬杖をついた。 「それって、どうやって探すつもりなんだ?オマエ達みたいに隠れて生きてたんじゃずーーーっと見つかんねーじゃん」 「一応、当てはあるんだ......当てにして良いのかわからんが...... 王都の南の方にギロギアという学術都市があって、そこに発明が趣味で超古代文明について調べている男がいる」 「その人が何かソラニアの末裔について何か知ってるの?」 「だといいんだが......」 「おいおい大丈夫かよ。なんで肝心な行き方を知らねーんだよ」 「俺が読んだのはソラニアの歴史書くらいで、 行くことなどないと思っていたからそんな記述を探したこともなかったんだ」 「んだよ、肝心なとこ抜けてんなぁ」 「なんだと!」 「まぁまぁ、ひとまずギロギアが次の目的地というわけですね~!」 「最後にこれだけは約束してくれ、この話は他言無用だ、外では誰に聞かれるかわからない」 「......わかった」  こんな長い話どうせ覚えられはしないとカイは思った。 「私も心に留めておきますです~」  ナオヤは頷いた。 「これから身の振り方について話があって忙しくするから 今夜はレリをそちらで預かって貰いたいんだが構わないか?」 「勿論です~」 「明日迎えにいくから君達も支度をしておいてくれ」
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