第14話 王都出立

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第14話 王都出立

 話し合いを終えたナオヤは部屋で一人、少ない荷物をまとめていた。 騎士団を辞める事は随分と引き止められた。  調査中だった人体魔獣化事件は後にミセリアの洞窟の奥でもぬけの殻の 実験施設が見つかっていた。 この件はナオヤも気にかかっているので何かわかればお互いに連絡を取り合うということになった。  騎士に属しながらなんとか両立はできないのかとか 個人的に協力するから辞めるな、等というありがたい申し出をすべて断ることは 気が引けたが仕方がなかった。  個人的な事情を明らかにすることはできない。 帰って来るときはいつでも、と籍だけ残し騎士団を抜ける形で折り合いがついた。  六年前にここにやってきた時、大切なものは全部故郷に置いてきたと思っていたのに 今ではこの王都にも大切に思えるものができていたなんて自分でも意外だった。 「狭い村を出て、見識を広め、とにかく人と関われ」と言った父の言葉を今頃思い出す。 いつだって父はナオヤには特に厳しく時には反発したが全部理由があって、 それは全部ナオヤの為だったのだ。  哀愁に浸っていると誰か部屋の扉をノックした。 c4688334-699a-426e-86a9-5a9fc4e24d56 「おい、俺様に挨拶も無く出ていくつもりか?」  派手な桃色の髪の男、もといソーマ王子が憮然として立っていた。 ナオヤはため息をついた。 一国の王子だというのにこの男は家臣の部屋をあまりに気軽に訪ねすぎる。 「後でこちらから挨拶に行くつもりでしたのに」 「嘘つけ、敬語はやめろといったであろう」  王子はずけずけと部屋に入るとベッドに腰を下ろして寛いだ。 「誰が聞いてるかわからないだろ」  他の人に聞かれたら不敬罪だ。ナオヤは扉を閉めながら窘めた。 「ソーマ、俺は......」 王子の蒼い海のような目が、いつになく真剣に揺れている。 「何も言うな。お前はいつかどこかへ行ってしまう、そんな気はしていたのだ」 「覚えているか、昔ソーマがこっそり城を抜け出す度に俺が連れ戻しに行っていた頃のこと」 「女の子だけが目的じゃないぞ、お前がちっとも俺様と遊んでくれないからだ」 「ふふ......知っていたさ。それだけじゃないことも。 君は街の暗い部分も自分の目で見ようとしていた。いつか国をもっと良くしたいと言っていた。 君はいい王になると思っている、だから俺は何度でも探しに行くのを引き受けたんだ。」 「楽しかったな、皆に内緒でお前と祭りに行ったりして......伯母上にも世話になったな。これからは寂しくなる。」 「すまない、ソーマ」 「帰ってくるのだろう?俺様はいつか王になる、いつまでだってここで待っていられるのだからな そうしたら、その時はお前も近衛兵になって力を貸して欲しい」 ナオヤは曖昧に微笑んで真っ直ぐな眼差しから目を反らした。 安易に気休めのような約束をすることは気が引けた。 「......ソーマ、最後にゲームをしよう。」 王都に来たまだ幼かったあの頃、よくソーマの遊び相手をした。 「ふむ。いいな、何にする?」 ナオヤは机を開けて小綺麗な小箱とコインを一枚取り出した。 ナオヤは不敵に笑った。 「オモテとウラ、どっちに賭ける?」 「オモテだ」 ナオヤはコインを弾くと綺麗な放物線を描いてそれは小箱の中に収まった。 中身を見ないように蓋を締めるとナオヤはソーマ王子に箱を手渡した。 「何のつもりだ?」 「結果は見てない。何年か経ってソーマが寂しくってどうしようもなくなったなら確認してみるといい。 ソーマが当たっていたならきっと俺はいつかソーマの近衛兵(ロイヤルガード)近衛兵になるために戻ってくる、 そう思っておとなしく待っていてくれ」 「そんなものが何のあてになる......帰って来なかったら、ウラだったらどうするのだ?」 「その時はソーマが俺を探しに来てくれ、もし君が俺を見つけられたらその時は改めて約束と誓いを立てるとするよ」 「いつもはあんなに城を出るなと言うのに俺様に探しに来いと言うのか? その頃の俺様にはかわいこちゃんの奥さんがいるかもしれんと言うのに...... だが、それも面白いかもしれぬな......。」 「一応言っておくが一人でノコノコ来るのは駄目だぞ、いつも護衛をつけてろ」  ソーマは王子故に近衛兵たちから直接剣術や魔術の指導を受けている。 もしも武術大会に出れば必ず上位に届くような実力を持っているが 王子という身分を忘れてふらふらするような事は看過できない。 「わかっておる。 そういえば、ナオヤにモノを貰うのは初めてだな。大事にしまっておこう」  そう言って王子は嬉しそうに箱を撫でた。 王子は立ち上がり部屋を出ていく前に振り返って言った。 「達者でな。」  王子の寂しそうな顔には罪悪感を覚える。 「君も。」  差し出された手をナオヤはいつも着けているグローブを外し、しっかりと握り返した。 王子が昔のように少し子供っぽい顔をして笑った。  そのころの宿屋『羊の船』では スーが机に向かって故郷へ手紙を書いていた。 「......みんなとってもいい人たちで毎日がちょううるとらすーぱー楽しいです……っと。」  バタン!と勢いよく扉が開く。 「は~~っやっと帰ってこれた」  汗だくのカイは買ってきた荷物をどさっとベッドにぶちまけた。 レリエと乾物や携帯食料、薬草等の必需品を買い出しに行っていたのだ。 「お帰りなさいです~!」 「あれ、スーちゃん何を書いてるの?」 「司祭様と村の皆さんにお手紙ですぅ。 しばらく帰らないということはキチンとお伝えしておきたくて、 ナオヤさんにステキな便箋も頂いたものですから、それにしても カイさんスゴイ汗ですよぅ」 「カイは大変だったんだよ、女の子が離してくれなくて」 「女の子???ですかぁ?」  カイと女の子、スーの中のカイのイメージとまるで結びつかず思わず疑問符を浮かべる。 「べっつに大したことじゃねーよ。顔見知りのヤツに付きまとわれただけだ。  おかげで遠回りして帰ってくる羽目になったぜ」 と片手でぱたぱたと顔を仰ぐ。  買い物中にジュリアに出くわしレリエとの事をいろいろ問いただそうとしてくるわ どこに行くのだとか誰と行くのだとかどれもこれもあまり詳しく話せないことが 余計に不満だったらしく迫りくるジュリアの甲高い声が今でもキンキンと頭で響いている。 「僕は結構楽しかったな。お買い物も、 お店の人が大会でのカイのこと見て覚えててくれて沢山安くしてくれたんだ」 「ああ、お陰で節約できたぜ!」 「カイさんって()()()おモテになるんですね......」 (誰にでも優しいですしぃ、黙っていれば......まあまあ男前ですし。)  スーはカイの顔を見ながら少々失礼な事を考えていた。 感情の起伏が激しく、くるくる変わるカイの表情をスーはとても好意的に感じている。  階下がざわざわと騒がしい、女の子の奇声にも似た悲鳴がする。 「あら、何やら下が騒がしいですね」 『ナオヤさまァ~~~~~~ん♡!!』 「お、どうやら兄貴が来たらしいぞ」  カイは黄色い奇声にうんざりした顔をして、レリエに言った。 「兄様も大変そうだから、ここで待ってるよ」  階下ではナオヤが女の子達をかき分けて受付の少女に話しかけた。 「ナオヤ様がうちの宿に御用だなんて珍しいですね! あたしの事、覚えてます???あたしリィンっていうんですけどぉ、こないだ~......」  ナオヤは宿の娘に迫られていた。 「すまないが今日は私用で来てるんだ、 カイという男と連れが2人泊まっている部屋に案内して欲しいんだが」 「お知り合いですかぁ?宿帳を確認してみますね」  リィンと名乗った宿の娘は帳簿をぱらぱらとめくっている。 背は高めでスタイルが良くウェーブがかった明るいオレンジの髪が 派手めな美人顔を際立てている。 「ご案内しますね!ナオヤ様またどこかへ行かれますの?」 ナオヤの荷物をみて娘は聞いた。 「......あぁ、長旅になるんだ」 「あのぅ、宿屋『羊の枕』は全国展開を目指していて、最近他国にも 店を出したので、ここのスタンプカード、使えるので是非ご利用くださいね!」  リィンは寂しそうな顔をしたが、すかさず宣伝もいれてくるあたり商魂たくましい娘だ。 「よぉ、色男!またキャーキャー言われてやがんの」  部屋に入るなりカイがからかう。 ムスッとしてナオヤはそれをスルーした。 「まだ荷物をまとめてなかったのか?  レリと伯父の家に挨拶にいくから、準備をして街の門の前で待っててくれ。 あと、お前は風呂にはいってから来いよ」 汗を拭っているカイを見てそう言うと ナオヤはレリエを連れてさっさと出ていってしまった。 「なんだあいつ、愛想ねーな。」  支度を済ませたカイとスーは王都入り口の門で二人を待っていた。 門の外はなだらかな平原がずっと続いていている。 旅立ちの天気は良好だ。 この国には冬はない、年中ずっと穏やかな気候をしている。 「あ、お二人が来られましたよぉ~」  スーが手を振る。 ナオヤはいつもの蒼い騎士の隊服ではなく淡い水色の私服に着替えていた。 「待たせたな、早速出発しよう」 「あ、おい、馬車の待合は反対だぞ?」  確か先日の話ではナオヤは馬車で行くと言っていた気がする。 「......天気がいいから歩いていく。1泊野宿することになるが別に構わないだろ?」  ナオヤは何故かさっき会った時から少し気が立っているようだ。 「何か理由が有るんだろうな?」 「後で話す」  かくして四人は王都を旅立ち、ギロギアという街へ向かったのだった。 (王子とナオヤの過去は外伝あります。 ソーマ王子とナオヤが出会った頃、6年ほど前の話です。 https://novelup.plus/story/915577054)
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