第4話 ミセリア村の事件

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第4話 ミセリア村の事件

ミセリア村教会  ナオヤの騎士隊は隊長であるナオヤを筆頭に若いメンバーで構成されている。 そんな年若い二人の騎士を伴って魔獣化した人を調べるため彼らは教会へやってきていた。 「こちらの神父様でいらっしゃいますね、例の件を調査しに王都から馳せ参じました」 「これはこれは、王国の騎士様方、遠路はるばるお越し頂きまして...... どうぞ教会の質素ではございますが、お部屋をご用意致しますので少しお休みになられては?」  柔和で人の良さそうな老齢の神父が出迎えた。 「ありがとうございます、ですが私共にお気遣いは無用です、 早速調査したいのですがよろしいでしょうか」  王都から急いで馬を飛ばしてきて疲れているはずだが 騎士たちはそういった素振りを微塵も感じさせない。 「騎士様はお噂どおり、お仕事熱心でいらっしゃる......それではこちらへ」  神父は教会地下にある遺体安置室へ三人を案内した。 王都付属の研究施設で体の組織を調べるために体の一部を検体として持ち帰ることになっていた。 暗い安置室をナオヤが持つろうそくの明かりがぼんやりと照らす。 「話には聞いちゃいたが......ちょいと奇妙だな、隊長」  騎士の一人、バーツが言った。 ナオヤより5つ年上の24歳で黒い短髪で片側に白いメッシュが入っている。 がっしりとした体つきを活かした体術や槍術に長けた男だ。  ナオヤは遺体を観察しながら熟考している。 aeaaa47f-89dc-446f-8855-8de01e3b179f 「そうだな、魔物たちは死後、体の一部、爪や牙を残すことはあるが 体の大半は砂のように消える、それなのに、この遺体はそのままで残っている。確かに奇妙だな」  もうひとりの騎士の名はアレンだ。 「異界から来た”魔物”でなくて、この世界の"人間"か”動物”ってくくりになるわけっすかねぇ?」  くせ毛の短めの淡い灰色の髪で、いつも眠そうな目つきをしている。 けだるげな物言いと見た目からやる気が無さそうに思われがちだ。 実際は態度がゆるいだけでやる気がないわけではなく、本人に言わせればエネルギーの効率的使用だという。 マイペースなアレンは冷静な状況判断と魔術を得意としていて 熱血漢のバースとはちょうど補い合う性質でコンビを組ませると相性が良い。 「まだ何も断定はできないがあり得ることだ、彼に何が起きたのだろう…... さっき周辺を見廻った時に教会の裏に洞窟のようなものがあるのが見えたのですが 日頃洞窟へ人の出入りは有るのですか?」 「いいえ、昔は修行者がこもったり、咎人が許しを得るために赴く場所として使われていたのですが それは昔の習慣で、最近は......もう何年も誰も立ち入ってません」 「それは何故です?」 「教会内に懺悔室を作ってからは専らそちらで済ませる方が多く、 これも時代でしょうか、最近の若い世代はあまり許しを乞うことや 修行に重きをおいていないといいますか...... 修行をするにしても何もこの洞窟でなくともと思うようでしてね」  神父は苦笑した。 「そうでしたか、念の為洞窟や村も見て回りたいのですが構いませんか?」 「えぇもちろん、洞窟内は入り組んでおりますが案内板もありますし、 祭壇まで往復で1日、2日もあればもどって来れますよ」 「ええっ、結構深い洞窟じゃないすか、がっつり見るのは時間的にもきつそうっすね。 半日ほどで見れそうな範囲で何か痕跡がないかだけ簡単に見て来ますよ」  とアレン。 「そうだな、詳しく調べる必要があるかはその後考えよう」 教会裏の洞窟では......  神父が騎士たちと話しているちょうどその頃。  スーは湿った空気に身震いし、暗い洞窟の前にランプを片手に立っていた。 2日分の食料と祭壇に供えるための亡くなった男の髪を一部、 房に編んだものをリュックを背負うとこれも神官の務め、と鼻息荒く歩きだした。  咎人のための洞窟の話は聞いたことがあったけれど中に入るのは初めてだ。 小さい頃は暗い場所が怖かったので寄り付くこともなくいつのまにか存在も忘れていた。  神父様は中にある看板通り進めば片道1日もかからないと言っていた。 スーは戦闘の心得もあったので思い立ったら吉日、一人で行くことにしたのだ。 神父様は来客があるので出発の挨拶ができなかったが行くことは伝えてあったので大丈夫だろう。 「こ、これはなんと.……!看板がぁぁ、どどどどうしましょ~~~!」  案内の看板が朽ちて地面に落ちている。 その先は2又に別れていてどちらが正しい道なのかわからなくなっている。 「ひき返したほうが良いでしょうか.……でも折角ここまで来たんですし。 ちょっと進んでみて次の案内板があれば正解ってことですよね、ウン。 すこ~しだけ進んでみましょう!」  独り言を言い、寂しさを紛らわせ前進する。  一方騎士たちは手分けして 洞窟にアレンが、村の中をバーツ、村の周囲をナオヤが各々見て回ることになった。  アレンは魔法でたいまつ代わりの光の玉を出して周囲を照らしながら洞窟を進んでいた。 神父によれば教会の聖なる加護で洞窟内でも魔物がでる事はめったにないらしいがそれも数年前の情報だ。 慎重にあたりを照らしながら進む。  洞窟の分かれ道ごとに矢印で祭壇への案内表示がある。 足元をよく見ると祭壇への道中はかつては人が多く通ったことを思わせる痕跡があって 道の中央あたりの地面は平らに近い。 そうでないほかの道の先はでこぼこしている。  たとえ案内表示がなくても踏みならされた道を歩いていれば祭壇に行くのに 迷子にはならなさそうだなとアレンは冷静に考えていた。  気になるのは分岐している未開のほうの道である。 この洞窟は存外複雑で深いようで小一時間歩いただけでも既にいくつかの分岐点を通り過ごしてきた。 魔物の気配はない。 洞窟の奥のどこまで教会の聖なる力の効力が届くのかはわからない。 事件との関連性があるかどうかは不明だがコウモリや小動物の気配までも感じられない事のほうがかえって気になった。 「こんな暗くて危険っぽいトコに誰でも簡単に入れちゃったらヤバいっしょ~」  封鎖を進言すべきだろう。 考えながら歩いていたらもう引き返さなくては集合時間に間に合わない。 分岐している先には何かあるかもしれないが一人で調査するには危険かもしれないと判断し アレンは足早に洞窟の外へと向かった。 「遅かったな、アレン」 「おう、おつかれアレン」  教会へ戻るとすでにナオヤとバーツは見回りを終えて洞窟の外で待っていた。 「アレン、洞窟の中の様子は?」 「あまり奥までは見れなかったんスけど、生き物の気配が無さすぎるのが ちょっと不気味でしたね〜。」 「参道なら聖水が撒いてあったりするんだろう、魔物は出ないと神父様は仰っていたが」 「参道は問題なさそうなんすけど、洞窟が予想以上にかなり深く入り組んでるみたいっすね」 「司祭は特に封鎖しないままにしていたようだったが、アレンはどう思う?」 「魔物や魔獣がいなくたっても、盗賊とかが住処にしちゃやばいじゃないすか~ 自分的にはこのまま放って置くのはちょっとどうかな~って思いましたね」 マイペースなアレンの自由な語り口にナオヤは内心頭を抱えたが言っている事はその通りだ。 「わかった。神父様に進言してみよう。 奥の方も後日改めて調査隊を派遣させて調べたほうが良さそうだな」 頷きながら二人の話を聞いていたバーツも渋い顔で口を開く。 「村中聞き込みをしてきたんだが、他所から巡礼に来る者が多数て 知らないヤツや不審なヤツがいても住民にはわからないそうだ。 あと、魔獣化した男にはかなりの借金があったらしく近隣の街に出稼ぎに出ていたんだと」 「彼の足取りはつかめたか?」 「いや......それが家族も年老いた婆さん一人で記憶も曖昧で 正確な事はわからなかった」 「そうか、では明日は近隣の街にも男の事を聞き込みにいくとするか」 「あ~そうっすね、でも聞き込みだけなら自分とバースだけでも大丈夫すよ、 だ・か・ら…...」 とアレンはバースに目配せした。 「そうだ、折角近くまで来たんだから、故郷に立ち寄ってきたらどうなんだ」 「この件で実家に帰るの延期したらしいじゃないっすか~」 アレンがナオヤの腕をつんつんした。 「いや、でもまだ調査の途中......」 「いいからいいから」 「ナオヤ隊長が暗いと俺たちの士気に影響するんですって、長いこと実家に帰ってないんっしょ」 「だが!」 「こっちは一旦任せてくれ、早く終わったら先に城に戻ってるんで、な~っ!」 「ね~っ!」 「すまない......ふたりとも、ありがとう。そうさせてもらう」  結局二人の好意に甘えることにしたのはもう一つ理由があった。 ここ最近、朝でも夜でも星がいやにざわめいているような感じがしていた。 これは嫌な予感だ。  気の所為ならいい。ナオヤは念の為故郷の村を確かめたかった。
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