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第6話 哀しみに沈む故郷
――ナオヤは故郷の村があったはずの場所に上の空で佇んでいた。
ミセリアの村を出て故郷に近づくにつれて感じていた胸騒ぎは一層激しくなっていった。
頭がチリチリとして毛が逆立つような感覚。
レリに何かあったのか…?
祖母であるばば様の占いのとある一節では
"二人で一つの輝きを放つ、ナオヤとレリエは兄弟星、最期まで運命を共にする"
ナオヤがこうして生きているのだからきっとレリエだって生きているはずだと思う。
だが嫌な予感が当たらなければいいと馬を急がせた。
稲光りがして、途端に雨がふりだした。ナオヤは濡れるのも構わずにひたすら走った。
手前の街で馬を預けすぐ様森へ向かった。
ここ「いにしえの森」は迷いやすく、魔物が出るため普通の人が立ち入る事はめったにない。
今日は生き物や動植物までもが息を潜めているような静けさに嫌な汗が背中を滑り落ちた。
入り口があった場所だ。
村を隠し、守っていた結界も消えていた。
それどころか、村自体が、消えていた。
村のあった形に大地は深く落ち窪んでいて底が見えない。
確かめるために下に降りたなら無事では済まないほどの高さだ。
ここから落ちたら上がってこれはしないだろう。
あの厳しく屈強な父が......、そんな父を気押すほどに気の強かった母が、
先を見通す占星術にたけた祖母も、負けず嫌いな幼馴染も。
何故…...自分の愛する人達がこんな目にあうのだ?自分がいない時に。
彼らが何をしたというのだ。俺は、守るために騎士になったというのに。
レリエは、弟はどうなったのだろう。
転移術が得意なスミレが側に居たなら弟は街のラモウ師匠の所へ転移させたはずだ。
全て緊急時の手筈通りに。
だが他の皆はどうだろう、底の見えない巨大な穴に呑まれて生きているものなどいるのだろうか…...
岩とわずかに残されたがれきで簡単に祠を作るとナオヤは騎士の形式で村の者たちを弔った。
感情を整理できずに、怒りか悲しみなのかもわからない涙が頬を伝っていく。
きっとどうしようもなく情けない顔をしているのだろう。
俺は未熟だ。
雨が降っていなかったら涙を流すことさえなかったかもしれない。
こんな顔は弟には見せられはしない。
しばらく穴の周りや辺りを調べてみたが何の手がかりも得られず原因もわからないままだ。
しかし狙いすましたかのように村だけ沈むなんて地震のような自然現象ではあり得なかった。
何か原因がある。
きっと何かが起こっている。
またこの場所へ必ず戻ってくることを誓うと、
今は街住むナオヤの剣の師匠、ラモウの家へと急いだのだった。
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