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次の日。
「どうした、夏生」
「いや、ええねん」
夏生が、国語の教科書を持ってウロウロしています。
「それ、また本読みちゃうんか?」
「うん、そやけど。今回は姉ちゃんに聞いてもらうわ」
「なんでや」
「だって、『おむすびころりん』やで」
「おむすびころりん、いいやないか。『おむすびころりんすっとんとん』」
雪ちゃんは踊って見せました。
「そやけど、最後は……」
「あっ」
思い出しました。確か最後は……
「ネズミの国、ネズミ浄土に行くんか?悪い爺さんは確か閉じ込められたような」
「まあね」
芽生姉ちゃんがやってきました。
「なに?本読み聞けばええの?」
「わいも一緒に聞いたる。大丈夫や」
雪ちゃんは、気合を入れました。
「じっちゃん大丈夫?」
「大丈夫や。武士やからな」
それから、夏生は大きな声で「おむすびころりん」を読みました。
雪ちゃん、今回は黙って最後まで聞きます。武士はそんなベラベラ喋るもんやない。とちょっと反省したのです。
教科書の「おむすびころりん」は、いいおじいさんの所で終わっていました。だけど、本当はこのあと悪いおじいさんが出てきて、ネズミに酷いことをしてネズミ浄土に閉じ込められる続きがあるのです。
(身の毛もよだつ。ああ〜なんて恐ろし〜)
夏生が心配してくれます。
雪ちゃんが、ネズミの国で、悪いおじいちゃんみたいになってしまうんじゃないかと。
「宝を奪おうとは思わんが、ネズミには優しくなれんかもしらん。わいも、蹴散らしてまうかもしれんな。そしたら、浄土の明かりを消されて帰ってこられへんかもしれへん」
雪ちゃんは、正直に答えました。
「ネズミ浄土に閉じ込められるかも」
「ネズミジョウロ?」
「ネズミ浄土といってな、ネズミが支配する国や。ああ、ネズミ浄土って話では、悪い爺さんは土の中に閉じ込められて出られんようになってしまうんや」
「ふーん」
「だから誰にでも、優しくせなあかんな。優しく。緑の狸は、いつかネズミに優しくできるやろか?」
「じっちゃん、ドラえもんの心配はせんでもええで」
「そうやな、自分の心配しよ。誰にでも優しくや。ネズミにも。……はぁー、やっぱり、できるやろか」
「大丈夫や。もし、じっちゃんが閉じ込められたら、わいが迎えにいく。わい、ばっちゃんバリアで守って貰って、助けに行くから」
「そうか」
「だから、わいが迎えに行くまで、待っとてや」
「……そうか。たのむで夏生」
「あ、ばっちゃんが迎えに行って助けてくれるかも」
「ばっちゃんがなあ」
雪ちゃんはポツリと漏らしました。
「うん。ばっちゃん迎えに来てくれるんちゃう」
「なっちゃん、その意味、なんか微妙だから」
芽生姉ちゃんが渋い顔で言いました。
「なんで?」
夏生が聞き返します。
「わいは、ばっちゃんにバリアで守って貰ってんで」
「うん」
「そしたら、じっちゃんを迎えにきてもええんちゃう」
「うん。でも、ばっちゃんが迎えに来るってのは、ちょっと……」
「なんで?」
夏生が再び真顔で聞いていました。
「もう、ええから」
芽生姉ちゃんはめんどくさくなって説明を諦めたようです。
「まあ、それはそれで、ネズミ浄土から抜け出せるならええわ」
と雪ちゃんは思うのでした。
「……」
なんか、しんみりしてしまいました。
「じっちゃん、ハンコ押して感想書いて」
よし。とハンコを押しました。
「感想『ネズミ浄土に連れて行かれませんように』っと」
「じっちゃん、それ感想ちゃう、願望や。……でも、ま、ええか。先生も分かってくれるやろ」
「いや、分からへんわ」
と芽生が突っ込んで、みんなでちょっと笑いました。
この部屋で笑うと、梅ちゃんもちょっと笑ってる気がします。
雪ちゃんは遺影をみました。やっぱり梅ちゃん笑っています。
……梅ちゃん、そのうち迎えにきてや。でも、もうちょっと先な。
と、夏生と芽生を見て笑いながら思いました。
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