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1 小羊よ、メエと鳴け
メエは、今日こそ家出を決行しようと意気込んでいた。小羊メエは、孤児院に身を置く、わずか十歳の女子であった。両親は、とうの昔に亡くなった。今の今まで友達と呼べる間柄を持てずにいる。けれど、寂しくはない。彼女には物心ついた頃から大事にしている人形があった。メエの身の丈ほどもある長大な人形であり、真っ赤な騎士の装いであった。その人形を、メエは“ミコ”と名付けて呼んでいる。いつだって肌身離さず抱きかかえ、さながら双子のような間柄であった。だから、ミコを連れ立って家出をするつもりであった。けれど、孤児院は、いつだって目を光らせている。それでもメエは家出を断念しなかった。窮屈な孤児院を抜け出て、もっと広い世界に飛び立つ事を夢見てきた。だから、今日こそ孤児院を密かに抜け出そうと決意した。
メエは、夕暮れの頃になって企てを実行した。この時間なら皆が食卓に集まるから、人知れず孤児院から抜け出せると思った。ところが、それを見抜いていたシスターの一人が、忍び足で出て行かんとするメエの首根っこを掴んだ。
あっさりと企てを阻止され、メエは見る間にしょげ返った。シスターは口を酸っぱくしてこう言い聞かせた。
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