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「いやあお客さん、僕ね憧れているんですよ、人助けをする仕事。けど、残念ながら僕はそういう仕事に縁がなくて、まあ僕の運転が少しでも人の役に立てればと思い、この仕事を選んだのですが、ハハハ」
運転手は何故か最後に笑った。
「あれ?でもお客さん。事故は川橋駅でしたけど、あそこら辺には大病院ないですよね?もしかして、お客さん直接現場へ駆けつけるようなお医者さんですか?着いたの事故の直後でしたよね?」
運転手はまたギラギラした目で私を見て来た。
だけど、私は彼を満足させるような返事はできない。
「いえ、私はそんな恐れ多い仕事をしているのではありません、私の仕事はどちらかと言うと運転手さんの仕事に近いですよ」
私はそう言って、ニコッと微笑んだ。
「そ……そうですか?」
運転手の顔をルームミラー越しに見ると、少し引き攣っていた。
タクシーに乗車して40分が過ぎた。
仕事場はそろそろのハズだけど、おかしい。
辺りは真っ暗で、街灯もなく、峠道に近い……
人気も無く、馬鹿騒ぎもない。
聞こえて来るのは雨の音だけ。
「あのう、ここ矢谷町で間違いないでしょうか?」
私は恐る恐る運転手に訊ねれる。
「ええ、お客さんが指定された場所で間違いないですよ」
おかしい。
本当にここなのか?
いや、違う。
想像していたのと違う。
そもそも人が誰もいない。
車もこのタクシーだけで、すれ違う車もない。
「お客さん、着きましたよ」
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