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運転手の声と共にタクシーは急停車した。その反動で私の身体は前のめりになり、前の席にぶつかりそうになった。
「申し訳ございません」
ニヤッと笑った運転手の顔が目の前にあった。
「あっ、いえ。大丈夫です」
私は前のめりに身体を起こすと、急いで財布を取り出した。
「いくらですか?」
運転手に訊ねながら、料金メーターを見ると、表示が消えている。
「あっ、申し訳ございませんお客さん。このメーター最近調子が悪くて、モニターが消えてしまう場合があるんですよ」
運転手はそう言うと、ガチャガチャと何かいじっている。
おかしい、どういことだ?
10月31日、今日はハロウィン。
毎年ハロウィンといえば決まっていた。
馬鹿騒ぎをした若者の後片付け。
大して重要でもないが、数の多い仕事だ。
なのに、こんな人気の無い場所。
該当者も見当たらない。
「お客さん、お待たせしました。5,700円です」
運転手はタクシーメーターのモニターを治したようで、今度はちゃんと5,700円と表示されている。
私は1万円札を出して、受け取るとタクシーを出た。
凄い雨の中だ。
私は急いでお気に入りの赤い傘を広げた。
「ありがとうございました、またのご利用をお待ちしております」
運転手は言い終えるとタクシーを発車させた。
私は誰もいない場所で取り残された。
あの運転手が場所を間違えたのだろうか?
それとも、上の指示が間違っていたのだろうか?
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