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長生き
アール村がオパイ村に変わってしばらくしたある日のこと。ゴンベイ王は宗教都市に向かいました。
目的はカナウ教の教祖様に会い、不死の方法を教えてもらうためです。
しかし、ゴンベイ王は周りに気づかれないように教祖様のもとに行きました。
なぜなら、歴代の王はカナウ教を国教とは認めず、交流することもなかったからです。
カナウ教は心のよりどころが必要な人のために排除されることはなかったものの、国から切りはなした自治都市として機能していたのです。
なので、王様は黒衣で足から頭までおおって教祖様の部屋をこっそり訪れました。
事前に約束を取りつけていましたので、部屋にはすんなりはいることができました。
「ふははは。とうとうこのような日が来るとはな」
王様が黒衣を脱いで姿を現すと、教祖様はいやみったらしい笑い声をあげました。
骨と皮ばかりのガイコツのような身体からわき出てくるカラスに似た声はとても不快で、王様はまゆをひそめます。
「で、王様がなんの用だ?
事前に伝えられたとおり、いまここには二人だけだ。さっさと話したいこと言いな」
教祖様になめられてなるものかと、王様は威厳たっぷりに口を開きます。
「では、率直に問おう。貴様はなぜ二百年も生きている?」
「はっ。そりゃ、神のご加護の賜物だよ。我は聖人だからね」
「ふん。国賊の貴様に聖なる力がないことは知っている。不死の方法を知っているなら教えろ」
「知っていたとして、簡単に教えるもんじゃないよ。まず、理由を教えてくれなきゃ。
なんでゴンベイくんは不死を求めているんだい?」
……ゴンベイくんだと?
取り乱しそうになった王様。目的を達成させるためになんとかこらえます。
「……愚息が心配で死ねぬ。
犬とばかりたわむれ、あげくのはては楽園にいる動物研究の専門家のところまで弱った犬を王族専用馬車を使って送らせた。
そのせいで、そこを通る村の者たちは勘違いをして、犬を盛大にもてなすこととなった。
もしも人よりも犬を優先する政治をはじめでもしたら、この国はどうなることか。できれば息子の次代である孫が成長するまでわしは生きたい」
「あはは。王子様はそんなにバカなのかい」
また耳ざわりな笑い声があがりましたが、王様は無視します。
「理由は話した。教えろ」
「ならば、それ相応のものをよこすと約束するんだな。たとえば、あんたの娘をよこすとかな。いひひひ」
王様はしばし悩みましたが、やはり国のゆくすえが心配でなりません。
「わかった。娘をやろう」
と、約束をしてしまいました。
「ははは、良い決断だ。じゃあ、教えてやるよ。
我はな、天国と地獄の両方から嫌われててお迎えが来ないんだよ」
「え。それが、不死になる答えか」
王様は信じられません。
「そうだよ。我は善き行いをしようなんてこれっぽっちも考えたことはない。
ただ楽して食べ物やカネが手にはいればそれでよかった。
王様を殺したら我が王様になれるかな、なんて考えて、その時の王様――ゴンザを殺してみた。
そしたらただ逃げまわることになって、ある日、ならず者仲間によって教祖様にしたてあげられた。
そしたら、どんどん信者がついて、簡単に食べ物やカネがどんどん集まった。
それで、勝手に信じた者が救われたと勘違いして、聖人とあがめられたんだ。
おかげで、我は地獄に行ってもいいと思っていたのに地獄からは嫌われ、天使もこんな悪人をお迎えしたくないといやがって――、二百年だ」
「それが、本当に答えなのか」
「そうだよ。だから、姫様をよこしやがれ」
「わしは、わし自身が不死になれる方法を知りたかった。わしは不死のために悪に染まる生き方はせぬ」
王様はそう言いはなつと、剣を抜いて教祖様の胸を貫きました。
「心の臓が止まっても、貴様は生きるのか」
「考えたことなかったよ」
と、教祖様はいやな笑い声をあげると、動かなくなりました。
王様はすぐさま黒衣に身を包んで部屋を出ました。
そして、直後に出会った女性に「ご信託です。教祖様は悪が取りついていたので処罰されました。あなたが次の教祖様です」と告げて、去ったのでした。
こうして、王様は不死の方法を手にいれることはできませんでしたが、先祖のかたきを二百年ごしに討つことができたのでした。
新しい女性の教祖様は穏やかな人で、信者の母的存在となりました。
前宗教では女性の地位が低く、教祖様による女性への乱暴は日常茶飯事でした。なので、新しい教祖様は女性からの支持を多く集めたということです。
おしまい
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