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「ふぅ、やっとついた……」
照りつける陽射し、セミ達の鬱陶しいくらいに求愛の歌を歌う声、体にへばりつくような汗……
猛暑の中、私はとある木の前で止まった。
少し小高い丘の上に立つ大きな木。
その根本の一角に実家から持ってきたシャベルをつきたてる。
ここは私の秘密の場所。
友達の少なかった私は、よくこの木の下で過ごしていたものだ。
上を見上げると大きな木の枝葉が木陰を作り、少しだけこの暑さから私を守ってくれる。
しばらくぶりの帰郷。
就職し、都会へ出た私に故郷の空気はとても澄んだ物に感じる……
今日はあるものを掘り出しにここへ来たのだ。
そう、それは私の思い出。
一人で埋めたタイムカプセル。
これだけ目立つ木なのに、周りに何も無い為か私以外の人がここに来たことは無い。
おかげで、これだけ汗だくで作業しても人目を気にする必要がない。
幼い日にタイムカプセルを埋める穴を掘っていた日の事を思い出す……
当時の私にとって、すごく大切な物を埋めた。
だから、間違っても動物などが掘り返さないようにできるだけ深く掘って埋めたのだ。
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