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階段を上りきった所で足を止める。
何故なら、自分の部屋の前に髪の長い女がいたから。
自慢じゃないが、俺には彼女も嫁もいない。
部屋の両隣は男だ。
じゃあ、あれはだれだ?
くたびれたトレンチコートに顔が見えない程にぼさぼさの髪をのばした女は、なにやら自分の部屋の扉に顔を押し当てて両手でカリカリと扉をかいている。
その異様な光景に動けずに居ると、女がゆっくりとこちらを向く。
「今日は居たぁ……」
俺は手に持った弁当を落とし、その場を走り去る。
だって、こっちを向いて笑った女の顔には眼球も歯も舌も鼻も無かった。
ただ目と口の位置に暗い虚空があるだけ。
今日は居た。
つまりあいつは毎日来ていたのか?
いつもなら音楽を聞いている時間。
周りの音など聞こえない時間。
扉の外にはこちらを呼んでいた化け物。
知らぬが仏。
それはどれ程前から続いていたのか?
後ろから聞こえるパタパタという足音を背に、俺は絶対に引っ越そうと心に誓って走り続けた。
来訪者 END
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