EP.9「相乗」

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分からない、分からない、分からない。どうすれば良かったのか、これからどうすれば良いのか。 自分がどうするべきなのか、もう何も考えられない。 今私の心を支配しているのは、たった一つだった。 「ごめんなさい、私、ごめ……っ」 「謝らないで、茜は何にも悪くない…っ」 「ちが、私が、私が…っ」 それは誰にも、分かりはしない。 素直になって、お互いの気持ちを曝け出していたとしても、それを受け止め切れるかどうかは別問題だ。 蒼が他の女を抱いたことは事実で、あの時の私は偽りの優しさで彼を包み込んだ。 あの時もしも彼が母親のことを全て話してくれたとして、私は結局同じことをしただろう。彼を許し、不憫だと感じ、蒼もまた被害者なのだと同情しただろう。 けれどそれが全部本当に、私の本心から来る感情なのかどうか。仕方ないと、割り切れたのかどうか。 どれだけ辛かろうと、他の女を抱くことが許されるのか、と。そんな感情と葛藤し、許せない自分は酷い人間だと、黒い感情に包まれる。 そうして私は今と変わらず、偽りの微笑みを蒼に向けてしまう。 結局は、私の心の問題なのだ。 壊れているのは、私も同じ。 ーー私はあの人に、選ばれたのだから どうしてだか不意に、母親の誇らしげな狂った笑顔を思い出した。 「私は蒼に、あんな酷いことをした。知らないからって許されることじゃないよ」 「それは俺だって一緒だよ。嫌われたくなくて、真実を話せなかった。一番卑怯なのは俺なんだ」 きっと一生、この言い合いは終わらないのだろう。互いが自身を責め、相手は何も悪くないのだと庇う。 違う、そうではない。本当は、 (二人とも、悪いんだ) きっと蒼もそれを、理解している。けれど、できない。だって相手を責める資格などどこにもありはしないと、私達は思っているのだから。 一緒にいる限り、負の連鎖は止まらない。互いの存在は、マイナスの相乗効果しか生み出さない。 (好きなのに) (好きなのに) ((どうしてこんなに、上手くいかないんだろう)) 臆病になり過ぎだと、たった今気が付いたとしても。 もう、手遅れなのかもしれない。
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