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分からない、分からない、分からない。どうすれば良かったのか、これからどうすれば良いのか。
自分がどうするべきなのか、もう何も考えられない。
今私の心を支配しているのは、たった一つだった。
「ごめんなさい、私、ごめ……っ」
「謝らないで、茜は何にも悪くない…っ」
「ちが、私が、私が…っ」
それは誰にも、分かりはしない。
素直になって、お互いの気持ちを曝け出していたとしても、それを受け止め切れるかどうかは別問題だ。
蒼が他の女を抱いたことは事実で、あの時の私は偽りの優しさで彼を包み込んだ。
あの時もしも彼が母親のことを全て話してくれたとして、私は結局同じことをしただろう。彼を許し、不憫だと感じ、蒼もまた被害者なのだと同情しただろう。
けれどそれが全部本当に、私の本心から来る感情なのかどうか。仕方ないと、割り切れたのかどうか。
どれだけ辛かろうと、他の女を抱くことが許されるのか、と。そんな感情と葛藤し、許せない自分は酷い人間だと、黒い感情に包まれる。
そうして私は今と変わらず、偽りの微笑みを蒼に向けてしまう。
結局は、私の心の問題なのだ。
壊れているのは、私も同じ。
ーー私はあの人に、選ばれたのだから
どうしてだか不意に、母親の誇らしげな狂った笑顔を思い出した。
「私は蒼に、あんな酷いことをした。知らないからって許されることじゃないよ」
「それは俺だって一緒だよ。嫌われたくなくて、真実を話せなかった。一番卑怯なのは俺なんだ」
きっと一生、この言い合いは終わらないのだろう。互いが自身を責め、相手は何も悪くないのだと庇う。
違う、そうではない。本当は、
(二人とも、悪いんだ)
きっと蒼もそれを、理解している。けれど、できない。だって相手を責める資格などどこにもありはしないと、私達は思っているのだから。
一緒にいる限り、負の連鎖は止まらない。互いの存在は、マイナスの相乗効果しか生み出さない。
(好きなのに)
(好きなのに)
((どうしてこんなに、上手くいかないんだろう))
臆病になり過ぎだと、たった今気が付いたとしても。
もう、手遅れなのかもしれない。
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