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「二條さんの言う、軽い付き合いってなんですか?」
「えっ?」
「相手に執着しないという意味合いなら、それこそ人間ができている証拠だと思います」
相手の為だという免罪符の元、自分を正当化して生きてきた私には。
「…三笹さんは俺のこういうところ、軽薄だって思わないの?」
「受け取り方は人それぞれですから」
「ちゃらちゃらしてるとも言わないんだ」
「私には直接関係がないので」
そう口にした後、またパンを一口かじる。二條さんは気分を害した様子もなく「結構言うね」と言って笑った。
「ねぇ。何があったのか、俺に相談してみる気になった?」
「少し寝不足で、疲れているだけです」
「そっか。うん、分かった」
彼は何度か頷いただけで、それ以上何も追及してこない。とっくに昼時を過ぎた社員食堂は人もまばらで、隅に座る私達を気にする人はきっと誰もいないだろう。
(本当に、よく分からない人)
私と蒼の関係性を面白がっているかのような発言をしたり、かと思えば心配してみせたり。以前の花井さん達との食事会の時も、真意はどうあれ二條さんは私を庇った。
そしてその時、思ったのだ。どうして蒼も彼のように、私を庇ってくれなかったのかと。
立場の違う人間同士をそんな風に比べること自体が間違いだったのだと、今なら冷静に思えるけれど。
「三笹さんって、俺のこと嫌いでしょ」
「正直に言うと、最近の二條さんは考えていることがよく分かりません」
「別に蒼さんから三笹さんを奪いたいとか、そんなことは思ってないよ」
何を当たり前のことを。牽制のつもりなのか分からないけれど、私はそんな勘違いはしていない。
「でもさ」
二條さんの澄んだ瞳は、じっと私の手元のパンを見つめている。
「もし三笹さんが独身だとして俺達が付き合ったら、多分上手くいくと思うんだよね」
「…私達、価値観が全く違います」
「そういう方が、案外プラスの相乗効果になったりするんだって」
「はぁ、そうですか」
怪訝な表情を浮かべる私を見て、二條さんが頬を緩める。もう気が済んだのか立ち上がり、んんっと軽く伸びをする。
缶コーヒーの中身がまだ残っているのが、持ち方から伺えた。
「急に呼び止めてごめん。今日はしっかり、寝られるといいね」
「…お気遣いありがとうございます」
「じゃあ、お疲れ様」
二條さんが数歩歩くとすぐ、別の社員から話しかけられているのを、なんとはなしに見つめる。
彼と話していると、つくづく自分と人の感情には差異があるのだと、感じさせられた。
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