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次の日社内携帯に二條さんから連絡があった。話がしたいと言われたので、昼休憩に出る大体の時間を伝える。
食堂の定食をトレイに乗せた二條さんが、私の正面に座った。
「昨日、妹が羊羹買いに来たでしょ」
「妹…ああ」
心当たりはある。昨日若い女性が来店し、確か「兄もここに勤めている」と言っていた。まさか二條さんの身内だとは、頭の端にも浮かばなかったが。
「俺に似てた?」
「そこまでよく顔を拝見していないので」
「名前は見てなかったらしいけど、話聞いて絶対三笹さんだと思ったんだ」
「はあ、そうですか」
どうやら今日の日替わり定食は、豚の生姜焼きらしい。二條さんの食べる姿を見ていたら何となく食べたくなり、今日の夕飯は生姜焼きにしようと決めた。
「二條さんの妹さん、物腰柔らかで丁寧な方だと思いました」
「ええ、そう?俺の扱いは結構酷いよ」
「仲が良いんですね」
「三笹さんは兄妹いる?」
その問いかけにいないと答えると、二條さんは「一人っ子っぽく見えない」と言って目を丸くする。
「妹と同い年だけど、三笹さんの方がよっぽど落ち着いてるよ」
「そんなことありません」
「アイツもう会う度に口煩くなっててさぁ。この間も…」
(何だか不思議な感じ)
最近の二條さんは正直に言うと、嫌で堪らなかった。全てを見透かしたような瞳で、無責任に核心をついてくる。
きっと彼は蒼と私が仮面夫婦か何かだと思っているのだろう。ある意味では合っているかもしれないが、二條さんの思い描いているそれとは違うとも思う。
楽しげに家族の話をする目の前の彼に、嫌悪感は浮かばない。寧ろこんな顔もするのだと、以外性すら感じてしまった。
たった数分の会話からも、家族仲が良いのだということが伝わってくる。
つくづく私とは違う人だと、思わず頬が緩んだ。
「こういうの、なんて言うんでしたっけ」
「こういうのって?」
「思い出した、シスコンだ」
「し…っ!ちょっと三笹さん!今の会話のどこをどう取ったら、俺がシスコンってことになるの!」
非常に不満げな表情をする二條さんを見て、私は小さく笑う。そうすると彼も同じように、ふわりと微笑んだ。
「何日か前まで今にも死にそうな顔してたけど、悩みは解決したみたいだね」
「解決は、きっとしないと思います」
二條さんは私が誤魔化さず答えたことに驚き、目を見開く。私は自身の弁当に視線を落としながら、今朝の蒼の姿を思い浮かべた。
「だけど、私達夫婦はそれでいいんです」
「…俺は、そうは思わないけど」
「二條さんはそうかもしれませんね」
私と二條さんは、育った環境も価値観も何もかも違う。だから考え方も違って当たり前だ。穏やかな表情で家族の話をしてみせる彼を見て、私は少し反省した。あまり頭ごなしに、彼の意見を否定するのはやめようと。
同期として、関係が悪化し気不味くなるのは良いことではないから。
「…そうやって、俺を締め出すのやめてよ」
「えっ?」
「俺と君の間に、線引かないで」
そう口にした二條さんの表情は、私が初めて目にするものだった。
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