EP.1「平凡な幸せ」

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EP.1「平凡な幸せ」

三笹(ミササ)(アカネ)は、毎日が幸せに溢れている。同じ日常が続き過ぎて薄れてしまっているかもしれないけれど、客観的に見ればきっと私は幸せだ。 「茜。今日は早く帰れると思うから、たまには外で食事しない?」 「うん、そうしよう」 朝の支度をしながら答えると、蒼はネクタイを締めながらにこりと笑った。 現在二十六歳の私と、その二つ年上の夫・(ソウ)。彼とは、私が二十歳の時に結婚した。蒼とは高校が同じ、と言っても一年しか被っていないけれど、私達はそこで出会った。 蒼はサッカー部の副キャプテンで、当時から背が高く全体的にすらっとしていて、とても見栄えが良かった。いわゆる塩顔で、柔和な雰囲気とその人柄が滲みている素敵な人。もちろん、女子からの人気も凄かった。 サッカー部の練習試合がある日なんかは、土日関わらずたくさんの女子達が蒼目当てに応援に来るほど。彼はあからさまに手を振ったりはしなかったけれど、邪険に扱うこともなかったから勘違いされやすかったんじゃないかとも思う。 対する私は、今も昔も平凡を絵に描いたような女だ。不細工と言われたことはないけれど、取り立てて褒める箇所も特にないような容姿だと、自分でも自覚している。 自身は普通だったけれど、仲の良い友人の一人が比較的に派手な子で。私はその子に誘われて、サッカー部のマネージャーをすることになった。 元々マネージャーはいなかったらしく、私と友達の二人だけ。 後から知った話だけれど、あれだけ蒼人気が凄いと逆にマネージャーを入部させることが困難だったらしい。ほとんどが邪な理由だから、選考基準に困るのだと。 そんな中でなぜ私達が入部できたのか。それは、私がいたからだ。蒼のファンでもなく、他の誰かが目当てというわけでもない、真面目そうな女子。 蒼が二年生の頃から徐々に部員が増え、三年になって雑務が追い付かなくなったらしい。それでマネージャーを募集することになり、選ばれたのが私達。 今にして思えばその友人が私を誘ったのも、そういう目論見があったのかもしれない。
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