閉ざされた世界

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 俺たち家族が住む家から数キロ先に大きな公園がある。菜々子は車を運転してよくその公園に優菜を連れて行った。休みの日、俺は誘われるたび仕事が忙しいからと言ってパソコンを起ち上げ、断った。実際は仕事じゃない。趣味のオンラインゲームでイベントがあり、オンラインでつながった仲間たちと時間を決めてゲームをしていた。  そしてふたりが家にいるときは、取引先と打ち合わせがあるからと言って外出した。実際はゴルフの打ちっぱなしに行ってスイングの練習をしていた。練習後はサウナに入り、汗を掻き、夕方になってさも打ち合わせで疲れたような顔をして帰った。  エンドレスで公園の砂場で遊ぼうとする優菜につきあうなんて無理だと思っていた。 「一杯どうだ」  珍しく定時に仕事が終わり、退社しようと席を立ったときだ。上司に飲みに行こうと誘われた。上司は俺の部署のトップ、役職は部長だ。  部長と飲むなんて自分を売り込むいいチャンスだ。出世は人間関係にあり。 「いいっすよ」  もちろん俺は即答した。一瞬だけ優菜の顔が浮かんだ。だがすぐに消えた。  上を目指すなら、上司の誘いは断ってはいけない。迷うなんてありえない。  明日は優菜と遊ぶ約束をしているから、ほどほどに飲めば、なんてことは考えなかった。  俺は上司のあとを追ってへこへこと歩いた。  その夜、俺は家での不満が酒を飲んだ拍子にうっかり出てしまい、つい部長に愚痴った。俺の話に部長は思いのほか関心を示した。 「おまえの気持ちはよくわかる。男が子守りなんてな、できるわけないんだよ。最近の若いやつらはあれだ。なんて言ったか。イクメンだっけ? 甘っちょろいこと言いくさって。おまえはその点、わしと気が合う。さあ飲んで」    そう言って、上機嫌に酒をついでくれた。 「あざっす」  その杯をぐいと煽り、俺はべろんべろんになるまで飲んだ。  もう明日のことなんか覚えてもいなかった。
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