<前編>

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<前編>

 これは、僕が小学校六年生だった時の話。  僕のクラスには、一つ妙なところがあった。生徒数が三十三人なのに、机の数は三十四個あること。そしてその三十四個目の使われていない机は見るからにボロボロだということだ。 「それじゃあ、今日は“しのびものがたり”の続きから行きますね」  担任のカナカナ先生(樋口佳奈美(ひぐちかなみ)という名前なのだが、若くて親しみやすいのでみんなカナカナ先生と呼んでいたのだ)が明るく声をかける。国語の授業は好きだった。漢字を読んだり書いたり、音読をしたりといったことは数少ない僕の得意なことだったからだ。僕ときたら昔から足は遅いし、計算は苦手だし、全体的にトロいしといいところが殆どなかったものである。絵を描くのはまだできなくもなかったけれど、不器用なので家庭科の時間も結構散々だった。調理実習でボヤを出した時の、あの先生の呆れた顔といったらない。  僕は先生が教科書に載っていた教材の説明をするのを聴きながら、最近はいつも同じことが気になってしょうがなかった。クラスにある、誰も使っていない三十四個目の机のことだ。僕達の机は、子どもが使うものであるし、古くなったらその都度買い替えられると聞いている。でもその三十四個目の机だけは、時々掃除されている形跡こそあるものの足は錆びているし木の部分は日焼けして黄色くなっているしと結構な年代物だった。  そして、絶対に使われることもない。というのも、僕のクラスは先月、五月の頭に転校生が来たからである。その時、あの机は“使われていない三十三個目の机”だった。でもアレを使うこともなく、他の教室からあいている机をわざわざ運び込んできたという経緯があるのである。確かに転校生の机がボロボロだったらまるでいじめみたいで可哀想だけれど、じゃあなんてあの机をそのまま放置しておくのだろうか。  気味の悪い怪談があるからだ、という話はちらっと聴いている。下手にあの机を処分したりすると祟りに合うからだ、なんて噂も。
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