<前編>

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――祟り、か。  死んだ人間が、今生きている人間に酷いことをする。そんなことが本当にあるのだろうか、と僕は思っていた。六年生に進級してからすぐからずっと気になってはいたけれど、ここまで興味を引かれるようになったのはここ最近のことである。  一つは、国語の授業で“しのびものがたり”というお話をやったこと。これは子供の授業で取り上げるには少々珍しいファンタジーなお話だった。忍者の息子として、たくさん人を殺したり盗みを働く(親いわくそれも任務というものらしいが)ことを繰り返してきた少年が、女の子の幽霊に遭って自分を見つめ直すという物語である。なんでも、ナントカ児童小説賞とかいうものを取った人の作品の一部であるらしい。途中、女の子が自分を殺した犯人(主人公とは別の存在だ)を祟り殺すシーンが出てくるのだ。犯人は血まみれの女の子を見て発狂し、御屋敷の窓から飛び出して転落死してしまう。女の子はそれを見て大笑いし、少年は自分がやってきたのも同等の罪だと気づいて冷水を浴びせられた気分になる、というストーリーだった。  まあ、忍者が存在するかどうかとか、幽霊が本当にいるかどうかは置いておくことにして。  幽霊が、自分が死ぬ原因になった相手を呪うというのはまだ分かる話なのである。気になるのは、“自分の死とはまったく無関係の人間まで命を奪うことが本当にあるのか?”ということだった。それをやって、彼ないし彼女には何かメリットがあるのだろうか。見ず知らずの人を呪い殺すと、その人物の魂が救われたりするのだろうか。ちょっとネットで調べても、たくさん人を祟り殺した幽霊はどんどん悪霊になってしまって、天国に行けなくなってしまうというような話しか落ちていない。 ――それでも、誰かを殺したくてたまらないほど、恨みを抱えてしまうってことなのかな。  僕はじっと、窓際のはしっこにちょこんと鎮座した机を見つめる。 ――みんなあの机には近づかないけど。近づいたら呪われるって、本当なのかな。  自分も呪われることがあるのだろうか。特にあの机を叩いたり、罰当たりなことをしたりなどしなくても。僕を呪うことで幽霊は嬉しくなったりするのだろうか。  僕がそんなことをぼんやりと考えるようになったのは、二つ目の理由からだった。
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