<前編>

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 *** 「度胸試しやろうぜ」  その日も僕は、クラスの男の子たちに囲まれてそんな話を持ちかけられていた。気が重くて仕方ない。ヤンキーっぽいやつとか、目に見えて素行が悪い連中ではないのだ。誰も彼も、クラスで成績が良かったり、週に何度も塾に通っているような奴ばかり。だから、先生達もみんな気づいていないだろう。そんな奴らが、誰かをいじめるような真似をしているなんて。  そう、僕は、このクラスでいじめを受けている。  やりたくもない受験をやらされてうんざりしている奴、毎日勉強漬けでストレスをためまくっていうりやつ、親や先生の前でいい子のフリをするのに疲れているやつ。そういう奴らが結託して、塾に行く前の時間に僕を呼びだして“いじめ”を行う。それも、顔に傷が残ったりするような発覚のしやすいいじめではない。最近の小学生男子には、うんざりするほど頭のいい連中もいるのだ。 「度胸試しつってもさー、あんまり危ないことはさせられないだろ」  言いだしっぺはリーダー格の少年だった。そのリーダー格と仲の良い男子の一人が苦言を呈する。 「歩道橋の上歩かせるとか、そういうことして事故が起きたら“誰のせいだ”ってなるじゃん?神山(かみやま)が普段から悪戯ばっかりするようなタイプなら“自分でふざけてやったんだろうな”になるだろうけど、こいつ地味だし」 「まあ、そうだよな」 「あ、わかった。肝試し系?七不思議でも試させるのか?」  そういう方向か。それを聴いて、僕はちょっとだけ安心していた。つまり最近と同じことは少なくとも今日は行われない、ということだからである。  最近と同じこと。つまり――トイレで撮影会、だ。  殴ったり蹴ったりして、暴力のあとが残るようなことは彼らはやらない。物を隠すってこともそうそうしない。器物破損だの窃盗だの、そういうのを問われたら面倒だと連中は知っているからだろうか。代わりにやるのは、もっと陰湿な行為だ。
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