駐車場に姫がいる

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 スマートフォンを見ると、いつもの奴からのメッセージ。 『姫、話に花を咲かせましょうぞ』  この独特のメッセージを送ってくる奴は、まめに連絡をくれる仲の良い奴だ。  しかし今のミチルにとっては、むしろ一番信用できなかった。  この親しさが、なにより胡散臭い。  メッセージが来るたび、疑心暗鬼に陥っていく。  みんな仲間だと思っていたが、今日実際に会ってみてわかった。  嘘つきだ。信じてはならない。 『気分じゃない』 『姫、姫。ご機嫌斜めでしょうか』  うるさい。目障りだ。  こいつも、利用してやろうなんて思っているかもしれない。下品な笑いを浮かべているかもしれない。  そう思うと、急に今までのやり取りに嫌気がさしてくる。恋愛経験の乏しいミチルにとって、男に騙されたというショックはあまりに大きかった。  デート中と思い無視していたが、他の男たちからもメッセージが届いている。 『ミチルたん、どうしたの?』 『姫、何かお困り事が有ればお申し付け候』  虫唾が走る。うるさい。何もできないし、しないくせに。 ──男なんて、どいつもこいつも、身勝手な奴ばっかりだ。  気付けば、男たちは憎むべき相手になっていた。大切なフィギュアを盗まれたことも相まって、悲しさと同時に復讐心が沸き起こる。  雑草を踏みつけたミチルは、怒り任せに返信をした。 『今、〇〇町のコンビニの駐車場にいるんだけど、財布落として帰れなくなっちゃって……。迎えに来てくれる人もいなくて、困ってる』  それをコピーして貼り付けること、数十件。手当たり次第にメッセージを送信した。  今度はこいつらを騙してやろう。  このくらい、自分が受けた仕打ちに比べれば、悪くないはずだ。  捨てられた腹いせに、男たちを騙してやる。  所詮は奥手な連中だ。怒らせたところで、どうってことない──。  ミチルは店内に戻ると、立ち読みのフリをして駐車場を見張りはじめた。
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