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スマートフォンはミチルの思惑通り、鳴り止まなかった。
『ミチルたん、待ってて!』
『了解』
『おk、すぐ行く』
次々と返信がくる。
いつもの奴も、相変わらずのノリで送ってくる。
『姫、某がすぐに馳せ参じまする!』
さむい、古い、ダサい。
いつもは口調を合わせるが、気分ではない。いつもとは違う雰囲気の言葉を返す。冗談ではなく女心を見せるべく、言葉を選んだ。
『早く来てくれないと、寂しくて死んじゃう。ぴえん』
『姫!』
『もうそれいいから、早く来て! 本気なの!』
『はは! しばしお待ちを!』
しつこい。
『あんただけは、信じてるから』
『姫……拙者、必ずや参ります故』
しつこい。しつこいにも程がある。
『もういい。連絡して来ないで!』
『姫……無念!』
最後まで懲りない奴。まぁ、こういう奴は、同じ匂いがするからわかる。どうせ来ない。
立ち読みで時間を潰していると、駐車場にトラックが停まった。
テカテカにデコレーションしてある車体に、アニメのイラスト。
強面そうな男がハンドルの上に足を乗せ、スマートフォンを弄っている。
開け放った窓から、タバコの煙がプカプカと空にのぼる。
そのすぐ後に、けたたましいマフラーの音を響かせた軽自動車。
派手な美少女のイラストが書かれたスポーツカー。
バイクに自転車、リュックを背負って歩いている男。
全員、もれなくスマートフォンを弄っている。
次々とミチルの元へ、メッセージが届く。
到着した旨を伝える文言が、目に飛び込んでくる。
わらわらと、コンビニの駐車場に男たちが集まってきた。
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