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トイレに居座ること二十分。これ以上は店にも迷惑だ。
諦めてトイレを出ると、思わず声が出た。
道を塞ぐように、男が立っている。
目深にかぶった帽子の下の、不気味な目がミチルを捉える。
ミチルの背筋を、嫌な汗が伝った。
男が一歩、足を進める。
「あの、ミチルさん……ですよね?」
「あの、私……」
一歩後退りながら口を開く。
ダメだ、逃げられない。
観念し、恐る恐る事の顛末を話すと、男はギリギリと歯軋りを立てはじめた。
「……許せない」
危険な香りを感じたミチルは再びトイレに逃げようと振り返った。
「ま、待って」
ミチルの背中に、声が投げかけられる。
さっきの表情とは裏腹に、慌てたような声がして、思わず振り返る。
「このまま立ち読みのフリをしてください」
「え?」
「いいから。僕が何とかします」
男はそう言い残し、店を出て行った。
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