駐車場に姫がいる

7/9
前へ
/9ページ
次へ
 トイレに居座ること二十分。これ以上は店にも迷惑だ。  諦めてトイレを出ると、思わず声が出た。  道を塞ぐように、男が立っている。  目深にかぶった帽子の下の、不気味な目がミチルを捉える。  ミチルの背筋を、嫌な汗が伝った。  男が一歩、足を進める。 「あの、ミチルさん……ですよね?」 「あの、私……」  一歩後退りながら口を開く。  ダメだ、逃げられない。  観念し、恐る恐る事の顛末を話すと、男はギリギリと歯軋りを立てはじめた。 「……許せない」  危険な香りを感じたミチルは再びトイレに逃げようと振り返った。 「ま、待って」  ミチルの背中に、声が投げかけられる。  さっきの表情とは裏腹に、慌てたような声がして、思わず振り返る。 「このまま立ち読みのフリをしてください」 「え?」 「いいから。僕が何とかします」  男はそう言い残し、店を出て行った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加