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丁度時刻は夕方６時。私は「送信」ボタンをクリックし、そのままカバンを持ってオフィスの扉を出た。
軽い足取りで向かうのは、会社から３０分くらい歩くと出てくる、私の最も好きな場所。いつも人が沢山いて、この世界でおそらく最もにぎやかな場所。私はまるで観光客にでもなった気分でその風景を眺めた。
「うわ…今日はクルーズが出航する日なのかな」
目の前に広がるのは、海ではないかと思うくらい、限りなく続く長い川。透明な水が流れる川の向こうは、いつも霧の中に埋もれていてなにも見えない。
私は旅客ターミナルから出発した船がその霧の中へ消えていくのを、少し離れた場所からずっと見守っていた。
顔に当たる風の優しさを感じながら、今日あの船に乗っている人はどんな人生を過ごしたのかなーと想像する。
彼らにも愛する人がいて、きっと今頃「向こうの世界」で永遠の別れを悲しんでいるだろう。そう考えると涙がじんとにじみ、私は急いで涙を振り払った。そしてその瞬間、後ろから誰かの足音が聞こえた。
「ー利映」
ふと名前を呼ばれ、後ろを振り返る。実は振り向く前からこの声の主が誰なのか、もう知っていた。とても優しくて、とても男前な声の彼は、私の肩にそっと手を乗せたままニッコリ微笑んだ。
ドキドキする心臓の音が聞こえそうで、必死にそれを落ち着かせようと踏ん張ったけどーやはり無理。
だって、こんなに格好いい人、他に見たことないから。温かい視線をくれる彼の目を見て、私は答えた。
「社長、来ましたか」
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