𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟓

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「麗二様は一度も貴方の事を忘れた事なんて無かったです」 「ーー……そんな、昔の事を…」 泣きそうになるのをグッと堪えながら膝の上で拳をつくる。僕が離れていた間も、会えない間ずっとそんな風に想ってくれていたのだと思うと、もう泣きそうだ。あの頃、寂しさを埋める様に毎日屋敷の家事と学校に励んでいたけど、麗二も忘れないでいてくれたんだ。目尻を軽く拭きながら「もう胸がいっぱいです」と失笑しながら告げると、彼もまた小さく笑った。 「あの……聞いてもいいですか。麗二がどうして引き篭もる様になったのか…僕と離れた事だけが原因じゃ無いですよね」 「…話すと、長くなるかもしれないですが、あまり良い話じゃ無くて」 ________ ____ 麗二様の様子が変わるキッカケとなったあの日ーー……私はいつも通り彼の勉強を教えに行こうと部屋へと向かっていた。彼の室長になって早四年程経っていたが、相変わらず彼は無口で笑おうとしない。その事情に畳み掛けるように、秋人当主迄もが体調を崩し、寝込む様になってしまった。 (秋人様がもし亡くなったら……やっぱり麗二様が継ぐのだろうか) いくら息子だからって、まだまだあんなに若いのに無理がある。そんな些細な事を思いながら、彼の部屋の前に着く。ふと、扉が僅かに開いている事に気が付く。不思議に思って『麗二様』とノックをしたと同時に開けてみるが、もぬけの殻だ。
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