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ペディの話は筋が通っていた。長い長い夢だったのだ。何もかもできすぎている世界だと思ったのだ。つまらないという感情すら消えていた左江内にとって、この世界で過ごした三週間が皮肉にも今までの人生で最も楽しかったのだ。
「なあ、ペディ。聞いてくれるかい?」
「なんでしょうか」
「俺は笑っちまうくらいつまらない人生を送っていたんだな。情けねえよ、まったく……」
嘲笑とともに悔し涙が溢れる。
「……このままこの世界には留まれないんだな?」
「ええ。ここはあなたの思い出深い『ゲーム』の世界ですから」
「本当につまんねえ人生。一番の思い出がガキの頃のゲームかよ」
「何もないまま旅立たれる方も大勢います。左江内様。あなたは恵まれていますよ」
「不幸自慢なんてこりごりだ」
生前、自分の人生に後悔はないと思っていた。しかし夢から覚めた今、選ぶべき道はひとつだ。
「ペディ。俺は決めたよ。俺はーー」
ペディの人差し指が左江内の唇を塞ぐ。
「皆まで言わずとも、私にはわかりますので」
「……ありがとう、ペディ。最期に君に出逢えてよかった」
「こちらこそヴォイド様。あなたは素晴らしい勇者様です。さあ、行きましょう。迎えの者が待っています」
「これから俺はどこに連れて行かれるんだ?」
「冒険の一環として楽しんでいただければと」
「まったく、最後まで良いやつだな」
左江内はペディの手を取り、すっくと立ち上がる。不思議と身体が軽くなった気がした。
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