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「最後って……あれは、現実じゃないだろ。だって俺は生きてるんだ。たしかに電車に向かって飛びこんだ。それは覚えている。でも俺の身体はここにちゃんとあるじゃないか。俺は今も生きてる」
左江内は自らの胸に手を置き、ペディに見せつけるように鼓動を確かめる。心臓は動いていなかった。
「そんな……馬鹿な。俺は、俺は死んでなんかない。なあペディ。俺は生きてるだろ? 悪い冗談はよしてくれよ」
「……左江内様。私はちょっぴりウソをつきました。勇者として活躍するあなたが好きだったから。本当のことを言います。あなたが取るべき選択肢はふたつ、成仏するか、霊としてあなたの世界に留まるかです」
「どうしてふたつしかないんだ……? どうしてどっちも死んだこと前提なんだよ。もしかして俺をからかっているのか? それとも俺が酒の飲みすぎで酔っ払っちまったのか?」
乾いた笑いが左江内からこぼれる。
現実を認めたくない。
その一心だった。
「左江内様。あなたは現実世界の三日前にお亡くなりになりました。そして三日後の今日、荼毘されました。おわかりですか? あなたにはもう帰るべき肉体がないのです」
「…………俺は本当に死んだのか?」
「はい。お悔やみ申し上げます」
「じゃあなんだ! この世界は。俺がガキの頃に遊んだゲームの世界そのままじゃないか! なあペディ。あんたはもっと優しいやつだった。ドラゴンを倒してハッピーエンドじゃダメなのかよ!」
「左江内様。あなたの魂は天に召される前に、あなたが一番楽しかった記憶を追体験しているにすぎないのです」
「俺の……一番楽しかった記憶?」
「あなたの場合は幼少期の遊戯だったということでしょう。私もペディであってペディでない。左江内様。あなたのようにさまよう魂を正しく天に送るための道先案内人なのです」
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