1章[ 介抱と出会い ]

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1章[ 介抱と出会い ]

 気を失っている彼を見て、初めに抱いた感情。  ――それは、ほんの少しだけの【恐怖】。  最近の若い人は素行が悪くて、口も悪いと聞いたことがある。  名も知らない年上の人を、見た目だけで『キモい』と。  そして『ウザい』と言う。  だから僕は、見ず知らずの他人には。  できるだけ……関わりたく、なかった。 (……でも)  傘を差さない人はいないだろうと思う、この大雨。  そんな雨の中で。  ――見ず知らずとはいえ、一人の青年が倒れている。  眉間に皺を寄せて、瞳を閉じている……そんな、青年。 (この人……なんだか、少しだけ……)  見た目だけなら、この青年は口が悪そうだ。  年上の人を『おっさん』と呼び、ちょっとすれ違っただけで『ウザい』と言いそうにも見える。  なのに、どうしてか僕には……その青年が。  ――とても、寂しそうに見えて。 (相手は、男の人だ。……僕が関わっていい人じゃ、ないのに……っ)  ――駄目だ。  そうとは、分かっているのに。 (……放って、おけない)  僕は、倒れている青年に。  ――手を、差し伸べたくなった。  僕は自分に差していた折り畳みの傘を閉じ、鞄にしまう。  そしてすぐさま青年の体を抱えようと、脇に腕を差し込む。 「ん……ッ」  そうすると、青年は顔をしかめた。 「っ! ……ごめん、ね……?」  相手の意識はないと分かっていても、反射的に謝る。  青年と距離を詰めた僕は思わず、じっくりと彼の顔を眺めてしまった。 (頬が、腫れてる……?)  ぶつけた……と言うよりは、誰かに叩かれたのか。  青年の頬は、赤く腫れていた。 (……けど、よく見ると……綺麗な、顔……)  どことなく痛々しい印象は受けたけれど。  僕は青年に対して、ぼんやりと。そんな感想を抱いた。 (……って。見惚れてる場合じゃない……っ)  どうだっていい感想を胸の中に押し込めて、僕は青年の顔から視線を逸らす。  そのまま、なんとかその青年を抱えて歩く。  ――行き先は、僕の家。 (それにしても……)  意外と、と言うか……当然、と言うか。 (僕より背が高いこの人を、僕は本当に……連れて帰ることができる、だろうか……?)  体格のいい青年を抱えて歩くのは、なかなか難しい。  当然、青年は重かったので……連れて帰るのには、苦労した。
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