1章[ 介抱と出会い ]

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 目が覚めると、そこは見慣れない部屋だった。 (ここ、は……ッ?)  記憶を辿って、必死にこの場所を思い出そうとする。  が、なにも思い出せない。 (確か、俺は……街を歩いていたはず、だよな?)  そして、そのままフラフラとさまよって?  ……ダメだ。  どうしても、建物に入った記憶が無い。  分かっていることと言えば、ここが俺の家ではないってことだけ。 (そもそも、俺は……なんで、街を歩いてたんだ……?)  一回振り出しに戻ってみようと思い、俺は街を歩いていたそもそもの原因を考える。  そこで。 「――いッ、てェ……ッ!」  突然、ほっぺたに妙な痛みが走った。 (なんだよ、ジンジン痛ェな! ……ン? ほっぺたに、痛み……?)  そこまで考えて。  それでようやく、街をさまよっていた原因を思い出せた。 (そうだ! 俺、アイツとケンカして、それで……ッ!)  ほっぺたが妙に痛い理由は、ひとつだけ。  ――俺は、彼女をメチャクチャ怒らせて。  ――そしたらアイツ、いきなり俺のことを殴ってきたんだ。  それで。  ……そし、て……? (あぁ、オッケー。……ようやく思い出せた)  落ち着く為に、一から考え直そう。  俺は昨日、彼女にこっぴどく振られた。  それがどうにも引っ掛かって、金曜日の仕事終わりだっていうのに、全然眠れなくて。  ――そうだ、酔って忘れよう!  そう思った俺は家にある酒をしこたま呑んで、ほど良く気持ちを誤魔化した。  が、今度は逆に酒を飲むことがメインになっちまって……? (酒がなくなったから、確か……コンビニに、向かったんだ)  俺はもう一度、室内を見渡す。  ……ヤッパリ、この建物に入った記憶はない。  当然ここは、コンビニなんかじゃないし。 (そもそも俺、コンビニにすら辿り着けてねェんじゃ……?)  その通り。  そもそも俺は、コンビニにすら辿り着けなかったんだ。  ……オイ、コラ。『コンビニに行けないほど酔ってたくせに外出するな』とか言うなよ、オイ。 (って、現実逃避をぶっかましてもなァ?)  結局、ここがどこなのかは分からないまんまだ。  身の振り方も分からない俺は、意味も無く辺りを見渡してみる。 (部屋ン中、なんにもねェな……)  必要最低限の物しか置いていない。  どことな~く、寂しい感じがする部屋。  ……いい感じの言い方をすれば【シンプル】ってやつか。 (いや、ホント……マジでここ、どこなんだ……?)  ダチの家でもなければ、ホテルっぽい感じでもない。  モチロン、刑務所ン中でもない……と、思いてェ。  心当たりになりそうな記憶を、無理くりにでも引っ張り出そうと、思考を巡らせてみる。  ……オイ、そこ。『ムダな足掻き』とか言うんじゃねェ。こちとら必死なんだよ、分かってくれ。  とかなんとか虚勢を張っていないと、不安でどうにかなりそうだ。  脳内ショートコントをテンポ悪く始めたとき。  ――俺は視線を、ある一点に向けた。 (――足音だ)  自画自賛になるが、今の俺は野生動物級の耳ざとさだったぜ。  視線を向けた一点――入口ドアの奥から、どんどん近付いてくる足音。  その足音が、ピタリと止まる。  それと、同時に。  扉が、開いた。
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