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白鷺 クロエ
「次に、金賞を受賞した高校の中から、全国大会に推薦する団体を発表します——」
季節は日差しが眩しい夏真っ盛りの8月。
ここは全日本吹奏楽コンクール四国支部大会の演奏会場。
全ての参加校の合奏が終わり、現在壇上では表彰式が執り行われていた。
各校の生徒たちは、観客席でひとかたまりになり着席している。
金賞を受賞した高校の生徒たちは、皆一様に期待と不安を抱きながら司会者が発するであろう次の言葉を待っていた。
愛媛県代表として四国支部大会に進出した私立東松山熟田津南高校、通称東高も金賞を受賞していた。東高吹奏楽部の面々も、食い入るような目で壇上の司会者を見つめている。
その中には同校2年生、フルート奏者白鷺クロエの姿もあった。
心臓の鼓動が激しく胸を打つ。
息が苦しくてたまらない。
無意識のうちに自分のスカートを強く握りしめるクロエ。
早く自分の高校名を読み上げて欲しい。
クロエは強く願った。
「——プログラム3番、香川県代表……」
司会者が全国大会に進む高校の名前を口にすると——
クロエの背後から大きな歓声が聞こえてきた。
もう一度、司会者の声が聞こえた瞬間——
舞台近くに着席していた生徒たちが立ち上がり、抱き合って喜びを表現している姿が見えた。
四国支部から全国大会に進めるのは2校だけ。
クロエたちの今年の夏が終わった瞬間だった。
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