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清風 涼
発表直後。
クロエの周囲からは東高吹奏楽部の仲間たちの泣き声が聞こえて来た。
隣の席に座る2年生の友人、ファゴット担当の鷹峯愛美も、顔を歪めて静かに悔し涙を流していた。しかし……
「……嘘だ。そんなわけない」
クロエはつぶやいた。
クロエの目に涙はなかった。
むしろクロエの瞳は怒りの感情に支配されており、その体は憤りで震えていた。
これは何かの間違えだ。私たちがここで終わるわけがない。だって、私たちはあんなに練習を重ねてきたのだから。クロエはそんなことを考えていた。
しばらくして——
すぐ前の席に座っていた同じ2年生の清風涼が振り向いた。
トランペット奏者の涼は、東高吹奏楽部のエースのような立場を担っていた。
今回合奏した曲の中でも、涼は重要な役割であるソロパートを担当していた。
いや、涼が活躍できる曲を選んで合奏したと言った方が正確かも知れない。
それほど、東高吹奏楽部における涼の存在は大きかったのだ。
クロエは涼の顔を見た。まったく取り乱した様子がない。むしろ微笑みさえ浮かべているように見える。
面倒なコンクールがやっと終わった。クロエには涼がそのように感じているように思えた。
そんな涼の顔を見たクロエは無性に腹が立った。いったい何様のつもりだろう。ちょっと他人より演奏が上手いだけで、自分は他のみんなとは違うとでも言いたいのだろうか。
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