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剛堂 誉
表彰式が終わり、東高の生徒たちも演奏会場を後にして、自分たちの送迎用バスが待つ駐車場へと重い足取りを進めていた。
「おい涼、ちょっといいか?」
涼に声をかけたのは、同じ2年生でコントラバスという弦楽器を担当している剛堂誉。
誉は身長170cmを優に超える立派な体格の持ち主で、空手の有段者でもある。
何よりも友情を大切する性分で、部内では人情派の姉御肌で通っていた。
「さっきの言い方は、あんまりじゃないか」
誉は涼に詰め寄りそう言った。
「ん? どういうことだい? ボクは自分の思っていることを言ったまでだよ。誉だって、ボクが音楽に点数をつけられるのが嫌いだってこと知ってるだろ?」
「ああ、よく知っているよ。私自身、涼と同じで、演奏で勝ち負けをつけるのは正直言って性に合わないさ」
「じゃあ、なんだって言うんだい?」
本当によくわからいという顔で言葉を返す涼。
「言い方だよ。私や涼がコンクールに良い感情を持ってないとしても、みんなが私たちと同じ考えを持っているわけじゃないんだ。わかるだろ?」
「もちろん、それはわかるさ」
その点については納得している様子の涼。
「一生懸命、全国大会出場を目指して頑張って来た仲間もいるってことだよ。ここは共感的な態度で、仲間の気持ちに寄り添うことも大事じゃないのか?」
「……誉はボクに、自分の気持ちを偽れって言うのかい?」
この時初めて、端正な涼の眉が少し上がった。
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