秘密

1/4
前へ
/82ページ
次へ

秘密

――その日の朝、ローゼフは朝食をとっていた。彼はクロワッサンを手に取ると、それを膝掛けようのナプキンに包んだ。パーカスはそれを見逃さなかった。 「ゴホン、ローゼフ様。貴方様のような高貴なお方がそのようなまずしい庶民がするような真似ごとはよろしくないかと存じ上げます。亡き父上様がそのような光景をみたら、きっと嘆くに違いありません」  その言葉にローゼフは突如カッとなった。 「黙れパーカス! お前ごときが父上の事を軽々しく口に出して言うな!」  そう言って怒鳴るとテーブルの上に置いてある食器を片手で払い除けて床に落として割った。 「気分を害したなら謝ります。しかし使用人達が妙な噂をしていたのを小耳に挟み、私も気になった次第でございます」 「妙な噂だと……?」 「はい。貴方の部屋を偶然、通りかかった者が部屋の中から貴方様以外の声を聞いたと言っておりました。噂によればその声は幼い少年だったとの事です。私は貴方様のことを悪く言う気はないですが、あまりそう言った趣向はよろしくないかと思います」 「何……?」 「貴方様は偉大なシュタイン家の若き伯爵様でおられます。スキャンダルな噂は社交界では、相応しくないと申し上げる次第でございます」  そう言ってパーカスが話すと、ローゼフは激昂した様子で言い返した。 「黙れパーカス! 私が色情に狂ったとでも言いたいのか!? 私が自分の部屋に少年を誘い込んだと言いたいのか貴様!! 今度そんな生意気な口をきいたら解雇してやるからな!?」  ローゼフは怒りがおさまらなくなると、急に椅子から立ち上がって自分の部屋に戻って行ったのだった。部屋に戻るとピノは大人しくベッドの下に隠れていた。そして、ベッドの近くで声をかけると下から飛び出してきて彼の脚に無邪気に抱きついてきた。 「ローゼフお帰りなさい! ボクずっとベッドの下で大人しく良い子にしてたよ、偉い?」  ピノはそう言って無邪気に笑った。 「あれ、ローゼフどうしたの? なんか元気がないね?」  心配そうな顔で話しかけると彼は疲れた顔でベッドに腰を下ろして座った。彼が座るとピノは無邪気に膝の上に座った。 「ボク、ローゼフの膝の上だぁい好き!」  ピノはそう言って甘えると、にこりと愛らしく微笑んでふり返った。 「そうだピノ。お前にお土産があるぞ?」 「わぁい、ありがとう! そのパン美味しそうだね! それになんかいい匂い!」 「フフッ、人形なのに匂いがわかるのか? 面白いなピノは――」 「うん、なんかそんな感じがするんだ!」  ローゼフはピノのその言葉にクスッと笑うと、ナプキンに包んだクロワッサンを手渡した。 「これなぁに?」 「ああ、これはクロワッサンと言う名前のパンだ」 「食べてもいい?」 「ああ、どうぞお食べ」  ピノは初めて食べるパンを美味しそうに、ガブリとほうばった。 「ローゼフ、このパン美味しいね!」 「そうなのか? 私はあまり好きじゃないな……」  ピノは口一杯にムシャムシャさせながら幸せそうに食べていた。その愛らしい様子を見た彼は、傍で微笑んだ。 「クロワッサンもっと一杯食べたい!」 「ダメだ! 次はもっと持ってくるから、それで我慢しなさい!」  彼がそう言って駄目だと話すと、ピノはションボリしてガッカリした表情を見せた。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加