髪飾り

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髪飾り

   その日、ピノは屋敷の中を探検していた。そして、再びあの部屋に訪れた。部屋の中央に飾られていた大きな肖像画は色褪せる事もなくそこに飾られていた。ピノは肖像画の女性に見とれるとそこでジッと絵を見つめていた。どこかローゼフと同じ雰囲気を持つ彼女は、まるで彼の生き写しのようだった。ピノは不意に肖像画の女性に話しかけてみた。 「ねえ、きみは誰? ボクはピノだよ。一緒にお話ししよう!」  ピノは無邪気に絵に話しかけると飽きる事もなく、再びその肖像画を眺めたのだった。その頃ローゼフと執事のパーカスは居間で話をしていた。そこにピノが足音をバタバタさせて部屋に戻ってきた。 「ねぇねぇ、ローゼフみてみて!」 「こーら、ピノ今は大事なお話し中なんだ。話なら、あとにしなさい。それに廊下をむやみに走るな、怪我をしたら危ないだろ?」  彼はそう言って注意するとピノに目を向けた。すると小さな手には綺麗な薔薇の形をした髪飾りが握られていた。ローゼフはハッとなるとピノに向かって急に怒鳴った。 「ッ…――!? ピノそれは母上の大事な髪飾りだ! これをどこからもってきた!? 今すぐ答えなさい!!」  普段はおとなしくて優しいローゼフだが、母の髪飾りをみた瞬間、彼は物凄い剣幕でピノに向かって怒鳴りつけた。その様子にパーカスも驚いた。 「ご、ごめんなさいローゼフ……! これ、向こうの部屋で見つけたんだ。お、怒らないでローゼフ…ボ、ボク…ひっく……!」  ピノはそう言って答えると今にも泣きそうな表情だった。だが、彼の怒りはおさまらなかった。カッとなると更に冷たく言い放った。 「フン…――! 人形の癖に、私から母上の大事な髪飾りを盗むとは許される行為ではないぞ!?」 「違うよローゼフ、ボクはこれを……!」 「黙れ盗っ人! お前の顔など見たくもない! 今度また盗んだりしたらお前が入っていた鞄の中に戻してやるからな!?」  ローゼフは感情的になると持っていた髪飾りを無理やりとりあげて乱暴に突き飛ばした。ピノは彼に突き飛ばされると悲しくて泣き出した。 「うわぁああああん! ローゼフのバカーっ!!」  ピノは床に座り込んで泣きじゃくった。黙って見ていたパーカスは怒り狂う彼をたしなめると、ローゼフは怒って部屋から出て行った。彼が居なくなると、パーカスは泣いているピノをあやした。そして不意に彼のことを話しだした。 「ピノよくお聞きなさい。ローゼフ様がお怒りになられるのは、仕方ないことなのだ」 「え……?」 「ローゼフ様は幼い頃に最愛のご両親をいっぺんに亡くされてとても孤独な人生を歩んできたのです。それが故に亡きご両親への想いは深く。どうしても、あのような冷たい態度を時おり誰構わずとってしまうことがあるのです――」 「パーカス……」 「とくに亡き母の思いは深く、彼はとてもマリアンヌ様のことを今も恋しがっておられるのです」  ピノはパーカスからローゼフの生立ちの話を黙って聞くと、ピタリと泣き止んで悲しい表情を見せた。 「そうだったんだね、ローゼフはずっと一人で寂しかったんだね……。ボクはマスターのことを何も知らなかった。こんなに近くにいたのに何も…――」 「ローゼフ様はずっと孤独で亡きご両親の事を想って過ごしていたのです。でも、そんな彼の心にも、光がまた戻ったのです――」 「光が……?」 「そう、きみが彼に光をもたらしたんだ」 「ボクが?」  パーカスのその言葉にピノはうつ向いた顔をあげて聞き返した。 「ボクがローゼフに光を……?」 「ああ、ローゼフ様はお前に出会ってから少しずつ明るくなられた。ずっと笑わなかった彼の顔に笑顔が戻った事に、私はきみに心から感謝しているのだよ。きっと彼のご両親も天国で喜んでるに違いない」 「あのね、パーカス。ボクあの髪飾りを盗ったんじゃないよ本当だよ? あの部屋で偶然拾ったんだ……。でも、ローゼフ信じてくれなかった。ボクもしかして嫌われちゃったのかな…――?」  ピノはそう言って話すと、不安そうな顔で彼の方をジッと見つめた。
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