少年愛玩ドール

秘密の花園

――朝日がのぼる頃には大空には鳥が二羽はばたいていた。ローゼフはパーカスに庭を散歩すると伝えると、ピノの小さな手を引いて屋敷の外の庭を歩いた。いつもは見慣れた景色もピノと一緒に見ることで違うように見えてきた。屋敷の外に広がる庭は広大で、植え込みの木々が綺麗に整えられていた。そして、中央には豪華な噴水があった。人魚の形で掘られた彫刻の泉は見ている者を圧倒するような、素晴らしい噴水だった。その近くには綺麗な花が色とりどりに沢山と植えられていた。ピノは屋敷の外に広がる豪華な庭園に目を奪われると大きな瞳をキラキラと輝かせた。

「すっごーい！　ねえ、ローゼフ凄いよ！？　まるで絵本のおとぎ話に出てくるお庭みたい！　ローゼフは王子様なの！？」

　ピノが不思議そうに彼に尋ねると、ローゼフは隣でクスッと優雅に笑った。

「はははっ、まさか。ピノはホントに面白いな――。お前から見たら私はそう見えるのか？　お伽話に出てくる王子様だって？」

「うん、だってローゼフは凄く綺麗だもん！　それに優しくてあたたかくて、ぼくローゼフのこと、だーい好き！」

　ピノは無邪気に両手を広げると、彼の事をどれだけ好きかを手で表現した。

「そうかそうか、お前は本当に無邪気だな…――」

「うん！」

「じゃあ、私が王子様なら。お前は小さな可愛らしいお姫様ってところかな？」

「本当に…！？」

「ああ、もちろんだとも」

「わーい！　わーい！」

　ピノは喜ぶと彼の前で楽しそうに庭を駆け回った。その仕草にローゼフは優しく微笑んだ。

「そうだ。ピノ、今からお前に母上が生前大事にしていた薔薇の庭園を見せてやろう。こっちだ来なさい」

「うん――！」

　明るく返事をすると彼と手を繋いで一緒に歩いた。そして、薔薇が咲いている小さな庭園に訪れた。ピノは初めて見る色とりどりの薔薇の数に驚くと、その瞳を奪われて興奮した。

「わあ、色々な薔薇が咲いててきれーい！　このピンクの薔薇、すごく素敵だね！？　あとこの蒼い薔薇も綺麗で、まるでブルーサファイアの宝石みたい！」

「ああ、そうだとも――。この小さな薔薇の庭園には世界中から集めた薔薇が咲いているのだ。それこそ中には非常に珍しい貴重な薔薇もあるんだ」

「そうなんだ。こんなに薔薇が沢山あったら、もっと他の所にも植えればいいのに…――」

　不思議そうにピノがその事を話すと、彼は急に暗い顔になった。

「それは父上が許さないだろう……」

「なんで？」

「父上は母上とは違い、薔薇が嫌いな人だった――。それこそ見る事も香りを嗅ぐ事も触る事もな……」

「ローゼフ？」

「母上がこの家に嫁いで来た頃、始めはこの屋敷の外に薔薇が沢山植えられていた。それが父上の母上の愛の証しだった。だが、ある日。父上は庭に咲いている綺麗な薔薇を全て切り落とした。そして、母上に冷たくあたったんだ。母上は切り落とされた薔薇を凄く悲しんでいた。だから私は母上に提案をした。この屋敷の庭のどこかに秘密の花園を一緒に作ろうと…――。母上はその話に賛成してくれた。そして、いい場所はないかと、母上と2人で庭を歩いてこの場所を見つけたんだ。父はそれには気づかず、私と母はこの秘密の花園で薔薇を植えた。母上は薔薇を植える時に、私にこう話してくれた。貴方はこの薔薇のように美しく、気高く育ちなさいと――」

「ローゼフ……？」

　ピノは悲しみの表情で話す彼の横顔に、小さな胸がぎゅっと締め付けられるように痛くなった。ローゼフは隣で遠い過去を思い出すように悲しげに話した。