略奪。

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略奪。

――どこからか陽気な鼻歌が部屋の中から聞こえた。屋敷に使える若いメイドは、鼻歌が聞こえる部屋を外から覗いた。そこはオーランドの寝室だった。彼は鏡の前で人形の長い金髪の髪をブラシでとかしていた。メイドはその異様な光景に釘付けになった。 「――どうだいメアリー。この青いリボンは、キミにぴったりだろ? その青々とした綺麗な瞳には、このリボンが似合う。ああ、そうだとも。そうかそうか、気に入ってくれたか。私もキミが気に入ると思って、上等な絹でこのリボンを作ったんだ。ああ、私からのプレゼントだよメアリー。ほら、まるでお伽話にでてくる可愛らしいお姫様みたいじゃないか」  彼は人形の頭に青いリボンを結ぶと、恍惚した表情で人形を見つめた。だが、少女の人形はピクリとも、瞬きもせずに。ただ無表情に鏡の前で座っていた。  オーランドは部屋の中で人形を相手に独りで話していた。そして、彼女の長い髪を手で触ると愛しそうに匂いを嗅いだ。まるで大切な恋人に話しているような雰囲気だった。その異様で狂気が漂うような光景に、メイドは扉の前で息を呑んで凍りついた。 「ああ、メアリー。私の可愛いメアリーよ、私は君の声を聞いてみたい。そして、笑いかけてくれ。この私の寂しい心を埋めて欲しい。そう彼らみたいに。どうすればキミは私に笑いかけてくれるのだ?」  オーランドは人形の前でしゃがみ込むと彼女の白い手に触れてキスをした。そして、切ない表情で語りかけた。だが、人形の少女は何も話さずに、相変わらず無表情のまま虚ろな瞳で彼を見つめた。彼はメアリーと呼ばれる少女の人形にまるで恋しているような様子だった。メイドは主人の狂気の一面を垣間見ると言葉を失って佇んだ。 「――ああ、そうだ。やはり急がなくてはな。キミが私に笑いかけてくれるならどんな事でもしてみるさ。愛してるよメアリー」  そう言って彼は人形にある誓いをたてると、膝まずいたまま、恋にこがれた瞳で少女の人形を見つめたのだった。メイドはその様子に怯えると足音を立てずに扉の前から離れて行った。オーランドは、少女の人形を大事そうに膝に抱えるとロッキングチェアに座って怪しげな鼻歌を唄った。 「ああ、もうすぐだよ。もうすぐだからねメアリー。楽しみにしててくれ」  そう言って怪しげに笑うと薄暗い部屋の中で、彼は椅子を揺らしながら少女に語りかけたのだった。
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