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「ローゼフみーつけた! 今度はローゼフが鬼だよ?」
ピノはそう言って無邪気に声をかけると、茂みに近づいた。すると突然、茂みの奥から黒服姿の男が現れた。その瞬間、ピノは驚いて悲鳴声を上げた。
「キャアアアアアアアッ!!」
ピノが大きな悲鳴を上げると、2人はとっさに駆けつけた。すると怪しい仮面をつけた黒服姿の男がピノの口をとっさに塞いだ。そして、その場から無理やり連れ拐おうとしていた。
「おい、待て貴様っ!!」
『ローゼフ助けてぇっ!!』
「ピノ…――!」
男はピノを肩に担ぐと近くに置いていた馬に急いで乗った。そして、慌てて馬に鞭を入れると素早く走らせた。ローゼフは目の前でピノがいきなり連れ拐われると、頭がカッとなってすぐに追いかけた。
「貴様、ピノをどうするつもりだ!? 私のドールを返せぇ―っ!!」
ローゼフが慌てて馬を追いかけていると、近くにいた馬車使いの者が騒ぎを聞きつけた。そして、自分の馬車に繋いであったロープをほどくと急いで彼に声をかけた。
「ローゼフ様、これを…――!」
「すまんアルベルト! 馬を借りるぞ!」
彼は白い馬に颯爽と股がると、鞭を入れて直ぐに走らせた。そして、後を追いかけた。ローゼフの慌てた姿に使用人達は何事かと騒ぎを聞きつけた。男はピノを無理やり拐うと、馬に鞭を入れ続けて逃げ切ろうとした。彼はその男のあとを懸命に追いかけた。
森の奥を馬で駆け抜けると、ローゼフは分かれ道を右折して近道を通って先回りした。男は気づかないで安心すると、気が緩んで馬の速度を落とした。すると突然、男の隣にローゼフが現れた。
「バカめ、油断をしたようだなっ!!」
「ローゼフ…――!」
ピノは彼に手を伸ばすと必死で助けを求めた。
「ローゼフ助けてぇっ!!」
「待ってろピノ! 今すぐ助けてやる!!」
男は隣に並ぶ彼に剣を向けると、いきなり攻撃してきた。それをとっさによけると反撃した。 鞭で手を叩くと、男は右手に持っている剣を地面に落とした。その隙に彼は再び鞭で男の顔を叩いた。男が気を緩めた隙に、ローゼフはピノに向かって手を大きく差しのべて叫んだ。
「さあ、ピノ! この手に掴まれっ!!」
「お、落とさないでよ……!?」
「お前を絶対に落とすものか! さあ、来い!」
「うん…――!」
ピノは勇気を出してローゼフの手を掴んだ。そして、彼は自分の腕の中にぎゅっと力強く抱き寄せた。 抱き寄せてつかの間に、ピノは大きな声を上げて彼に叫んだ。
「ローゼフ前、危なーいっ!!」
「し、しまった……!」
目の前には断崖絶壁が一面に広がっていた。男は顔に鞭をくらって気をとられていると、気がついた時には遅かった。視界には崖が辺り一面に広がっていた。そして、慌てて馬の手綱を引くが、馬は興奮した様子で止まらず、そのまま男を乗せたまま崖から勢いよく転落したのだった。
ローゼフは崖から落ちる手前で手綱を力強く引くと、馬は崖の手前で走りを止めた。あやうく彼らも崖に落ちるところだった。2人は命拾いしたと思うと、そこでホッとため息をついた。ローゼフはピノが目の前で拐われて死ぬほど焦ったのか、今も緊張状態が続いていた。そして思わず腕に力が入った。
「ロ、ローゼフ苦しいよ……!?」
彼はピノを強く抱き締めると、あの者が何者だったかをその場で考えた。
ただの人拐いが私の屋敷に来るなど不自然過ぎる。私には身内は一人もいないのに、何故この子を拐おうとしたんだ? もしや何者かが、私からピノを拐えと命じたのか? そうだとしたら一体誰が…――? も、もしや……!?
彼は不意に何かを思いつくと顔を青ざめさせてた。そして、胸のうちに僅かに怒りを込み上げた。
「どうしたのローゼフ?」
ピノは心配そうに彼に尋ねると、ローゼフは心配させまいと明るく振る舞った。
「さあ、帰ろう…――」
「うん……!」
ローゼフは白い馬を走らせると、2人は仲良く屋敷へと帰った。
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