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「おお、一体どうしたのだピノ?」
「ローゼフが叩いた! ローゼフが叩いた!」
ピノはそう言って火がついたように泣くと、パーカスはピノを抱っこして必死にあやした。
「おーよし、よし、もう泣くのはお止めなさい」
ピノは泣きながらパーカスにしがみつくと、グスングスンと悲しげに泣き続けた。
「ローゼフ様、ピノを叩いたのは本当ですか?」
「わ、私はべつに……。ただ手が、顔に少し当たっただけだ! まったくそれだけで子供みたいに泣いてみっともない…――!」
「ローゼフ様、いいですか!? ピノはまだ幼い子供です! 貴方様にはそれくらいに見えても、子供にとってはそれくらいのことでも酷く傷つきやすいのです!」
「っ…――!」
「それに貴方様を慕っていたら尚更です……!」
パーカスが諭すように話すと、彼は反省してピノに手を伸ばした。
「ピノすまなかった。どうか許してくれ…――」
ローゼフがそういって手を差し出すとピノはその手を拒んだ。そして、彼から顔を背けた。
「ピ、ピノ……!?」
ローゼフは何も言わずに椅子に置いたステッキを持って部屋から出て行った。そして、朝日が昇る頃に屋敷の門の前に迎えの馬車が訪れた。ローゼフは使用人達に一言挨拶をすると馬車に乗り込んだ。すると、窓の外からピノがパーカスに抱っこしてもらいながら話かけてきた。
「ローゼフ早く帰って来てね。あと、ワガママ言ってごめんなさい…。もうワガママ言わないから、だから早く戻ってきて…ぐすっ……」
そういって寂しそうにそう話すと、ローゼフは頭を優しく撫でた。
「ああ、すぐ帰ってくる……!」
「うん。約束だよローゼフ?」
2人はそこで約束を交わすと小さな指切りをした。
「ではローゼフ様、道中お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
「ああ、パーカス。留守の間、ピノの面倒をよろしく頼む。なるべく早く帰ってくる」
「ええ、もちろんです。ピノの面倒は、我々にお任せ下さいませ」
ローゼフはパーカスに信頼を寄せると、最後に一言挨拶を交わして馬車に出発の合図を送った。すると、ピノは右ポケットから小袋を取り出すとそれをローゼフに手渡した。
「これ、ボクの好きなマカロンとあめ玉。ローゼフにあげる! 暇なとき食べてね?」
「ありがとうピノ。あとでゆっくり食べさせてもらうよ」
「うん……!」
ローゼフはピノからお菓子が入った小袋を受けとると優しく微笑んだ。
「では行って来る……!」
彼が合図を送ると使いの者が馬車を走らせた。そして馬車が門をくぐると、ローゼフは後ろ髪を惹かれる思いで自分の屋敷をあとにした――。
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