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罠
ローゼフが屋敷から出て行くとピノは肩を落として元気がなくなった。パーカスが心配して声をかけるとピノはどこかに走り去って行った。そして、屋敷の庭園を一人で歩き不意に秘密の花園に訪れた。そこには色とりどりの薔薇が鮮やかに咲き誇り。地面には赤い薔薇の花びらの絨毯がしきつめられていた。ピノは、花びらが落ちている地面に寝転がると悲しい気持ちを抑えて空を見上げて涙を堪えた。
大好きな彼があの人に会いに行く――。それだけで小さな胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるくらい悲しかった。傷ついた心に悲しみが溢れ出すと、ピノはローゼフのことを強く想った。
お願い…ワガママはもう言わないから帰ってきてローゼフ。離れないで傍にいて。一人にしないで…。ボクのこと嫌いにならないで…。ローゼフ…――。
ピノは小さな心をいためると、彼が自分から離れていくことに悲しみと恐怖で胸が張り裂けそうだった。
一層、人形のままが良かった……。
はじめから心を持たない人形だったら、こんなに悲しむことはなかったのかも知れない…――。
ボクはローゼフにとって、本当に大事なドールなのかな。 ローゼフの愛がなくなったらボクは……。
ピノは酷く悲しみに胸を押し潰されると瞳から涙を流して彼の事を思った。そこにアーバンが現れた。
「おやおや、こんな所に1人でいてはダメだよピノ君。ローゼフ様はどうしたんだい?」
彼の質問にピノは突然、泣き始めた。
「そうかそうか。やはりあの方のところへと行ったのかい?」
アーバンが訪ねると泣きながら小さく頷いた。
「行っちゃったの…――! ボクは行かないでって言ったのにローゼフはボクよりあの女の人の方が大事なんだ…! やっぱりおじさんの言うとおりだった。ボクが人形だから、ローゼフはボクのことを嫌になっちゃったんだ。だからあの女の人の処に行くんでしょ?」
「そうだよピノ、それが普通なんだ。いくら好きでもきみと彼は惹かれてはいけない運命なんだ。人と人形じゃ、悲しい運命が待ってるだけだよ」
「この前ローゼフがボクに聞いてきたんだ。愛がなくなったらボクはどうなるか…。ボク凄く悲しかった。きっとローゼフ、ボクを捨てる気なんだ。やっぱりアーバンおじさんの話が正しいや…――」
ピノは悲しそうにそう話すと、ションボリした表情で肩をおとした。
「いいかピノ。彼の愛が本当なら確かめて見るんだ。それが真実なら彼は必ず、きみのところに帰ってくるはずだよ」
「アーバンおじさん…――?」
「さあ、一緒に行こう! 行って彼を止めるんだ!」
「で、でも…。勝手にお外に出たらローゼフに怒られちゃうよ…――」
「じゃあ、彼があの人に会ってもいいのかい?」
「ダメ!」
とっさに言い返すと瞳から大きな涙を浮かべた。
「じゃあ、行こう! 私のあとについて来なさい!」
アーバンが手招きすると、ピノは勇気を出して彼のあとについて行った。そして、庭園を2人でコソコソ歩くとアーバンが茂みからピノを呼んだ。
「こっちだよピノ!」
「アーバンおじさん待って……!」
2人は小さな小道を隠れながら一緒に歩いた。暫く歩くと、屋敷から離れていた事にピノは気がついた。
「アーバンおじさん、この道で大丈夫なの?」
「ああ、そうだよ。こっちで良いんだ。さあ、ついて来なさい」
「う、うん……!」
ピノは素直に返事をすると彼のあとを黙ってついていった。そして、見知らぬ場所に到着した。森の中に一台の黒い馬車が止まっていた。アーバンは急ぎ足で馬車に近づくとそこからヒソヒソと誰かに話かけた。
「~~様、例のあの子を。はい、そのとおりですよ。大丈夫です。ご心配なく――」
アーバンが誰かとヒソヒソと話していると、ピノはそこで急に不安感を抱いた。
「さあ、乗りなさい」
「え……?」
「さあ、いいから早く!」
「で、でも勝手に屋敷の外に出たら……」
「そんな事はいいから乗って!」
「でもやっぱり…――」
「大丈夫、私が後でパーカスさんには説明しとくよ」
「ほ、本当に……?」
「勿論だとも。私を信じなさい」
「うん、わかった……!」
彼がそう言って話すとピノは疑う事もなく、信じて頷いた。そして、そのまま馬車の中に乗った。
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