少年愛玩ドール

罠

　アーバンに言われて馬車に乗ると中にはオーランドがいた。ピノは彼を見て驚くと、馬車から降りようとした。すると突如、馬車はゴトッと大きな歯車の音を立てて動き始めた。ローゼフが以前、オーランド公爵には気をつけなさいという言葉が脳裏に過った。そう思った瞬間に全身が小刻みに震え上がった。目の前で脅えているピノを見て、オーランド公爵は優雅な物腰で話しかけた。

「おやおや、何をそんなに怯えているんだねピノ君。どこに向かおうとしていたのかな？」

「……ローゼフのところだよ」

「お止めなさい。彼のところに行っても、キミはただ不幸になるだけだ」

「そ、そんな事ないよボクは……！　お願い、馬車を止めて…――！」

　ピノは震えた様子で話すと、今にも泣き出しそうだった。しかし、オーランドは話を続けた。

「私だったらキミを悲しませたりはしないさ。キミが悲しんでいるのは彼のせいだ。違うかい？」

「ち、違う…――！」

「彼はね、本当はキミの愛から逃れたいのだ。だからベアトリーチェの所に行くんだよ――」

「ローゼフがボクの…？」

「そうだよピノ君。彼は人間で、キミは「人形」だ。2人とも住む世界が違い過ぎるのだ。きみの愛が彼を苦しめている事に何故、気づかない？」

「ボ、ボクがローゼフを…――？」

「ああ、そうさ。表向きはキミに愛を囁くが、それが本当に彼の真実とは限らない。もしかしたら偽りかも知れないだろ？」

　オーランドがそう話すとピノは思わず言い返した。

「そんなことないもん！　ローゼフはボクを抱き締めてくれる！　優しく笑ってボクに話しかけてくれる！　ボクにキスしてくれるもん！」

　ピノは言い返すと大きな声で泣き出した。

「でも、所詮は偽りだ。偽りの姿のキミを彼が本気で愛すわけがなかろう。彼は単に、人形遊びを楽しんでいるだけなんだよ」

「違う…！」

「きみが珍しいから。きみが生きた人形だから、彼は面白がっているんだ。違うかい？」

「違う違う！」

「そして飽きたら人形遊びをやめて、他に興味を示すだけだ。例えばローザンヌ家の美しい令嬢、ベアトリーチェとかいう娘にな。おお、可哀想なピノ……。キミはなんて不幸で可哀想なんだ。愛し愛される為にこの世に誕生したのに一方的にしか愛は通じておらず彼の愛はキミから離れていくばかりだ。なんて可哀想な愛玩ドールなんだろうか、私ならキミをこんなに悲しませたりはしないよ――？」

「ボ、ボクが可哀想なドール……？」

「ああ、そうだとも――。彼の愛が、キミから離れていくのを傍で感じないか？」

　そう言って彼が話すとピノは急に泣き出した。

「っひ…うっうっ…ローゼフ…ひっく……」

　ピノは悲しくて涙が止まらなかった。オーランドは悲しんでる様子を見るとニヤリと微笑を浮かべた。

「どうしておじさんは、ボクが愛玩ドールだってこと知ってるの……？」

「ああ、わかるとも。私はずっときみを探していた。愛玩ドールに会える日を私はどんなに心から待ちわびただろうか。もとはキミは私の愛玩ドールになる予定だった。しかし計画が少々狂ったが問題はない。私はキミをやっと手に入れたからな――」

　オーランドのその言葉にピノは衝撃を受けると怖くなって馬車から飛び降りようとした。 しかし、彼は持っているステッキでドアを叩いて塞ぐと急に座れと怒鳴り声をあげた。ピノはビックリすると、椅子に戻って震え上がった。